家庭裁判所に出す資料の個人情報はどう隠す? 裁判所の案内から
先に結論
家庭裁判所の調停などで出す資料は、相手が閲覧したりコピーしたりすることがあります。そのため、いくつかの家庭裁判所は、知られたくない部分を出す人が自分で黒塗りしてから提出するよう案内しています。
- さいたま家庭裁判所の案内:原本は塗らずにコピーを取り、コピーを黒塗りする。透けて見える場合は、塗った書面をさらにコピーして、透けていないかを十分に確かめる。
- 大阪家庭裁判所の遺産分割の調停の案内:見られたくない情報や、源泉徴収票などに載っているマイナンバーは、その部分を黒塗りするなどして、誰からも読み取れないようにしたコピーを出す。
- 富山家庭裁判所の後見人向けの Q&A:後見事務の報告の資料として、やむを得ず本人のマイナンバーが載った書類を出すときは、その部分を黒く塗りつぶすなどして、マイナンバーそのものを出さないようにする。
このページでは、この 3 つの家庭裁判所の資料の言葉どおりに、何をどう隠すかを整理します。出す先がほかの裁判所のときは、提出先の裁判所の案内を確かめてください。
出した資料は相手も見ることがある
まず前提です。さいたま家庭裁判所の「相手に知られたくない情報がある場合について」は、最初に「裁判所に提出された書類は、相手が閲覧やコピーすることがあります。」と書いています。
大阪家庭裁判所の遺産分割の調停の案内(「調停で書類を提出される方へ」)も、「あなたが提出される主張書面や資料等について、他の当事者等が閲覧(見ること)や謄写(コピーをすること)の申請をすれば、原則として、お見せしたりコピーすることを認めることになります。」としています。さらに、出した副本は「原則として他の当事者等に交付します」とあり、提出書類は「今後、誰に閲覧・謄写されても差し支えのないように作成し」て出すよう求めています。
裁判所は中身を点検しない
大阪家庭裁判所の同じ資料には、「裁判所は、提出された書面に非開示希望情報が記載されているかどうかを点検することはありません。」ともあります。出したあとに裁判所が気づいて隠してくれる、という前提には立てません。大阪家庭裁判所の案内の言葉では、黒塗りは「ご自身の責任で」行うものです。
何を隠すか
自分で作る書面には、そもそも書かない
さいたま家庭裁判所の案内は、出す書面を 2 つに分けています。自分で作る書面には「相手に知られたくない情報は書かないでください。」、自分で作る書面以外は「知られたくない部分を黒塗り(マスキング)してから提出してください。」です。大阪家庭裁判所の案内も、主張書面には「他の当事者等に知られたくない情報は記載しないでください。」としています。
知られたくない情報が表れやすい書面
さいたま家庭裁判所の案内は、非開示希望申出書を出したあとや秘匿決定のあとに書面を出す場面について、「知られたくない情報」が載っていないか十分に確かめるよう書き、知られたくない情報が表れやすい書面の例として次の 4 つを挙げています。
- 給与明細書
- 源泉徴収票
- (非)課税証明書
- 診断書
その情報を推測させる情報(推知情報)
同じ場面について、案内は知られたくない情報そのものだけでなく、その推知情報(案内の言葉では「その情報により『知られたくない情報』が推認されるもの」)が載った書面も、その部分を黒塗りするか、非開示希望申出書を出すよう書いています。具体例として挙がっているのは「子の保育園や学校名、通院している病院名」です。
マイナンバー
大阪家庭裁判所の案内は、資料に「マイナンバーが記載されている場合(源泉徴収票等)」も、その部分を黒塗りするなどして「誰からも読み取れないようにした」コピーを出すよう書いています。富山家庭裁判所の後見人向けの Q&A も、後見関係の手続きで「マイナンバーが必要とされることは通常ありません。」としたうえで、報告の資料にやむを得ず本人のマイナンバーが載った書類を出すときは、その部分を「黒く塗り潰すなどして」出すよう案内しています。
通帳の写しなどの資料
大阪家庭裁判所の遺産分割の案内は、資料の例として「不動産登記事項証明書、通帳の写し、残高証明書」を挙げています。こうした資料は、主張を裏付けるために出すものです。どの行を残してどこを隠すかは、上の考え方(相手に知られたくない情報と、それを推測させる情報)に沿って、資料ごとに決めることになります。
隠し方: コピーを塗り、透けを確かめる
さいたま家庭裁判所の案内は、黒塗りの具体的な方法を 3 つの手順で示しています。
- 「原本をコピーする(原本を黒ペン等で黒塗りしないでください。)。」
- 「コピーを黒塗り(マスキング)する。」
- 「黒塗り(マスキング)しても該当部分が透けて見える場合には、黒塗り(マスキング)した書面を更にコピーして、該当部分が透けて見えていないか十分に確認する。」
ポイントは 2 つです。原本は塗らないこと。そして、紙の上で黒く塗っても、下の文字が透けて見えることがある、という点です。透けて見えるときは、塗った書面をもう一度コピーし、そのコピーで読めないかを確かめます。
大阪家庭裁判所の案内も、黒塗りした部分を「読み取れないようにして」コピーしたものを出すよう書いています。大阪の案内の言葉どおり、ゴールは「塗ったこと」ではなく「読み取れないこと」です。
黒塗りのほかに知っておくこと
黒塗りした部分は、判断の材料にならない
大阪家庭裁判所の案内には、調停が成立せず審判の手続きに移った場合について、「非開示希望部分や資料等に黒塗りした部分は、審判の判断資料とはなりません。」とあります。主張を裏付けるために出す資料では、隠す部分を広げすぎないことも大切です。何を隠し、何を残すかは、この点も踏まえて決めます。
裁判所には見せる必要があるとき
相手には知られたくないが、裁判所には見せる必要がある、という情報もあります。さいたま家庭裁判所の案内は、その場合の手続きとして「非開示希望申出」と「秘匿決定申立て」を挙げ、住所・氏名等なら非開示希望申出か秘匿決定申立てを、それ以外の情報なら非開示希望申出を「検討してください」としています。ただし同じ案内には、非開示希望申出をしても「裁判官の判断により秘匿情報が開示される可能性があります。」とも書かれています。
大阪家庭裁判所の案内も、黒塗りせずにどうしても出したいという希望について「単に隠したいという気持ちだけでは隠せません。」と書き、申出をするときは事前に担当書記官に問い合わせるよう求めています。こうした手続きを使うかどうか、使い方の細部は、提出先の裁判所や依頼している弁護士に確認してください。
いちばん確かなのは、出さないこと
大阪家庭裁判所の案内は、「他の当事者等に知られたくない情報は、裁判所に提出しないことが最も安全です。」と書いています。黒塗りを考える前に、まず、その情報を出さずに済まないかを考えます。
PDF で準備するときの注意
源泉徴収票や通帳の明細を PDF で受け取っていたり、紙の資料をスキャンして PDF にしていたりする場合、PDF の段階で隠してから印刷するという順番も取れます。このとき気をつけたい点が 2 つあります。
黒い四角を重ねただけの PDF
文字の情報を持っている PDF に、注釈や図形で黒い四角を重ねただけだと、下の文字はファイルの中に残っています。紙に印刷すれば四角の下は見えませんが、その PDF ファイルをそのまま誰かに渡したり、別の用途に使い回したりすると、文字を選択・コピーして読めてしまいます。PDF で消すなら、下の文字ごと消す(焼き込み)方式を使います。失敗の型と確かめ方は 黒塗りが「見える」「剥がせる」原因と、渡す前の確かめ方 にまとめています。
印刷したあとも、裁判所の案内どおりに確かめる
PDF で消してから印刷した場合も、出す前に、隠した部分が読み取れないかを紙で確かめます。さいたま家庭裁判所の案内が求めている「透けて見えていないか」の確認は、紙で出すときの確認として、そのまま当てはまります。
Fuseji(伏字)は、PDF の中から氏名・住所・電話番号・個人番号・口座番号などを候補として示し、選んだ部分を下の文字ごと焼き込み、書き出したあとに消した語が残っていないかを自動で確かめるアプリです。検出は「候補の提示」なので、どれを消すかは画面で確かめて決めます。士業の方向けの使い方は 士業の方へ にあります。
手順のまとめ
家庭裁判所に資料を出す前に通す手順です。かっこの中は、その手順の出どころです。
- 提出先の裁判所の案内を確かめる:このページの内容は、さいたま・大阪・富山の家庭裁判所の資料によるものです
- 出さなくてよい情報は出さない:自分で作る書面には、知られたくない情報を書かない(さいたま・大阪の家庭裁判所の案内)
- 原本は塗らず、コピーを塗る:原本を黒ペン等で塗らない(さいたま家庭裁判所の案内)
- 知られたくない情報と、それを推測させる情報を探す:知られたくない情報が表れやすい書面(給与明細書・源泉徴収票・(非)課税証明書・診断書)に注意し、子の保育園や学校名・通院している病院名も見る(さいたま家庭裁判所の案内)
- マイナンバーを隠す:源泉徴収票などに載ったマイナンバーは読み取れないようにする(大阪家庭裁判所の案内・富山家庭裁判所の後見人向けの Q&A)
- 隠しすぎない:黒塗りした部分は審判の判断資料にならない(大阪家庭裁判所の案内)
- 透けていないかを確かめる:塗った書面をさらにコピーして確かめる(さいたま家庭裁判所の案内)。PDF で消した場合は、下の文字が残っていないかも確かめる。PDF なら 剥がしテスト で調べられます
Fuseji は無料版でも、検出・確認・書き出し・剥がしテストが使えます(書き出したファイルには透かしが入ります)。ダウンロード から試せます。
このページは、参考に挙げた家庭裁判所の資料の要点を整理したものです。案内の内容は裁判所や手続きによって異なることがあります。個別の扱いは、提出先の裁判所や依頼している弁護士に確認してください。
参考
- さいたま家庭裁判所「相手に知られたくない情報がある場合について」:https://www.courts.go.jp/saitama/vc-files/saitama/2023/fc-04-shiraretakunai.pdf
- 大阪家庭裁判所 家事第 3 部遺産分割係「調停で書類を提出される方へ〔窓口配布用〕」:https://www.courts.go.jp/osaka/vc-files/osaka/2023nendo/kasai_isanbunkatsu/1_11_ib_shoruiteishutsu.pdf(同じ文面は、大阪家庭裁判所 家事部の申立ての案内(一括)にもあります:https://www.courts.go.jp/osaka/vc-files/osaka/2024nendo/kasai_isanbunkatsu/0_00_kyotsu_ikkatu.pdf)
- 富山家庭裁判所「成年後見人Q&A(保佐人・補助人を含む)」Q20 マイナンバーの取扱い:https://www.courts.go.jp/toyama/vc-files/toyama/file/104307.pdf