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閲覧等制限の申立てで出す「秘密記載部分を除いたもの」(マスキング書面)の作り方

先に結論

民事訴訟の記録は、原則として第三者も閲覧を請求できます。記録の中に当事者の私生活についての重大な秘密や営業秘密が載っているとき、その部分を閲覧などできる人を当事者に限るよう申し立てるのが、閲覧等の制限の申立てです(民事訴訟法 第 92 条)。

この申立てでは、秘密の載った書面のほかに、その書面から秘密の部分を除いたものも作って出します(民事訴訟規則 第 34 条第 3 項)。裁判所の案内では「マスキング書面」「マスキング文書」と呼ばれています。押さえることは 3 つです。

  • 申立書に秘密そのものを書かない。秘密の部分は、ページと行などの位置で示します。
  • マスキング書面は、秘密の部分だけを、読めない形で消す。最高裁判所の手引は、PDF 編集ソフトのマーカー機能だけでは文字の情報が消し切れないとして、墨消し機能などで削除し、提出の前に確かめるよう書いています。
  • 書面を出すのと同時に申し立てる。あとから申し立てても、その前に第三者が閲覧してしまうことがあります。

このページは、条文と、東京地方裁判所・大阪地方裁判所の案内、最高裁判所の手引の言葉どおりに、この 3 つを整理します。個別の事件で何が「秘密」に当たるか、制限が認められるかの判断はしません。担当の弁護士や裁判所に確認してください。家庭裁判所の調停などで、相手に見られる資料をどう隠すかは 家庭裁判所に出す資料の個人情報はどう隠す? にまとめています。

閲覧等の制限とは(民事訴訟法 第 92 条)

記録は第三者も閲覧を請求できる

民事訴訟法 第 91 条は、紙などの訴訟記録(非電磁的訴訟記録)について「何人も、裁判所書記官に対し、非電磁的訴訟記録」の閲覧を請求できると定めています。第 91 条の 2 は、裁判所のファイルに記録された電磁的訴訟記録についても、何人も閲覧を請求できるとしています。

第 92 条で、閲覧できる人を当事者に限る

第 92 条第 1 項は、次のどちらかについて疎明(一応確からしいと示すこと)があった場合に、裁判所が当事者の申立てにより、決定で、秘密の載った部分の閲覧等を請求できる人を当事者に限ることができると定めています。

  • 第 1 号:記録に「当事者の私生活についての重大な秘密」が載っていて、第三者が閲覧等をすると「その当事者が社会生活を営むのに著しい支障を生ずるおそれがあること」
  • 第 2 号:記録に当事者が保有する営業秘密(不正競争防止法 第 2 条第 6 項の営業秘密)が載っていること

同じ条の第 2 項は、申立てがあったときは「その申立てについての裁判が確定するまで、第三者は、秘密記載部分の閲覧等の請求をすることができない。」としています。東京地方裁判所の知的財産権部の案内も、制限の効果は決定があった場合のほか、申立てから裁判の確定までの間も暫定的に生じると説明しています。

制限されるのは第三者の閲覧です。相手方の当事者は、制限された部分も見られます。相手方に住所や氏名を知られないようにする手続は別にあり、最高裁判所の手引でも「当事者間秘匿の申立て」として別に扱われています。

申立てと一緒に出すもの(民事訴訟規則 第 34 条)

申立ての方式は、最高裁判所の規則である民事訴訟規則 第 34 条に定めがあります。裁判所が公開している改正後の規則(令和 6 年最高裁判所規則第 14 号による改正後のもの)では、次のとおりです。

  • 第 1 項:申立ては「書面で、かつ、秘密記載部分を特定してしなければならない。」
  • 第 2 項:自分が出す文書などについて申し立てるときは「当該文書等の提出の際にこれをしなければならない。」
  • 第 3 項:申立てをするときは「当該申立てに係る文書等から秘密記載部分を除いたものをも作成し、裁判所に提出しなければならない。」。ただし、秘密の部分が文書の全部のときは、この限りでないとされています

この第 3 項の「秘密記載部分を除いたもの」が、マスキング書面です。大阪地方裁判所の知的財産権部の案内は「閲覧等制限を求める秘密記載部分が文書の一部である場合は、当該文書から秘密記載部分を除いたもの(マスキング書面)を提出してください」と書いています。

東京地方裁判所の知的財産権部の案内は、書面で申し立てる事件について、マスキングした準備書面・書証などの写し 1 部を「第三者からの閲覧等請求があった場合に閲覧等に供されるもの」と説明しています。つまり、第三者が見るのはマスキング書面のほうです。消し残しがあれば、その部分は第三者に読まれます。

改正後の規則の第 34 条第 8 項は、改正後の事件について、マスキング書面を出す代わりに、その画像情報を裁判所のシステムでファイルに記録する方法で出せるとしています。令和 8 年 5 月 21 日以後に提起された事件について、東京・大阪の両地方裁判所は電子提出の案内を出しています(後の節)。

秘密の部分の示し方: 申立書に秘密を書かない

申立書で「どこを制限してほしいか」を示すとき、秘密そのものを書き写してはいけません。東京地方裁判所の案内は、秘密記載部分の特定について「申立書及び添付書類に当該秘密自体の表示をする方法は避け,当該部分の位置を指定する方法によってください」と書いています。大阪地方裁判所の申立書の記載例にも、「申立書及び添付資料中に秘密記載部分を表示すると、その記載も秘密記載部分となるため、ご注意ください。」とあります。

位置で示す 2 つのやり方

両地方裁判所の記載例は、文書の一部を対象にするときの示し方として、次の 2 つを挙げています。

  • 文章で位置を示す:何ページ何行目の「〇〇」の次から、何ページ何行目の「〇〇」の前まで、のように書く
  • マスキングした書面を別紙に付ける:「別紙マスキング部分」のように書き、塗った書面を別紙として添える

大阪地方裁判所の電子提出の案内は、誤りの例として具体的な氏名を書いた特定を挙げ、正しい例として「訴状記載の原告氏名の閲覧若しくは」のように位置で書く例を示しています。

秘密を 1 か所に寄せる工夫

東京地方裁判所の案内は、間違いを防ぎ、制限する部分を分かりやすくするために、秘密が載った書面をほかの書面と分けて作ったり、秘密の部分を別紙にしたりする工夫が必要だとしています。準備書面を書く段階から、秘密は別紙にまとめておくと、あとの作業が少なくなります。

マスキング書面を PDF で作るとき

マーカーで塗っただけでは文字が残る

最高裁判所事務総局民事局の「民事訴訟フェーズ3に向けた準備の手引」(R8.10.2)は、「文書等にマスキングをする際の留意点について」として、PDF 編集ソフトで「マーカー機能を用いるのみでは」文字の情報が消し切れないとし、「墨消し機能を用いるなどして」文字の情報を削除したうえで、「削除できていることを提出前に確認する必要がある」と書いています。この留意点は、当事者間秘匿の申立ての頁で、秘匿事項が載った文書について書かれたものです。PDF の上でマスキングするときの注意としては、閲覧等制限のマスキング書面にもそのまま当てはまります。

Word などで作った準備書面を PDF にしたものは、ファイルの中に文字の情報を持っています。その上にマーカーや黒い四角を重ねても、下の文字はファイルの中に残り、選択・コピーで読めてしまいます。PDF で消すなら、下の文字ごと消す(焼き込み)方式を使います。失敗の型と確かめ方は 黒塗りが「見える」「剥がせる」原因と、渡す前の確かめ方 にまとめています。紙に塗ってからスキャンする場合は、塗りが薄いと下の文字が透けることがあるので、スキャンした画像で読めないことを確かめます。

秘密の部分「だけ」を消す

大阪地方裁判所の電子提出の案内は、マスキング文書について「申立人の責任において、閲覧制限の対象となる秘密記載部分のみが確実にマスキング処理されていることを十分確認したうえで」アップロードするよう求めています。東京地方裁判所の電子提出の案内も、申立人の責任でマスキング処理が確実に行われていることを十分確認するよう書いています。消し残しが無いことと同時に、申し立てた範囲より広く消していないことも確かめます。

2 つのファイルを取り違えない

電子提出では、秘密の載った文書(マスキングのない文書)と、マスキング文書を、裁判所のシステム(mints)上の別々の事件情報に上げます。両地方裁判所の案内は、マスキング文書のファイル名の冒頭に「(マスキング)」と付けるよう求め、秘密の載った文書を誤って基本の事件情報に上げた場合は、速やかに裁判所に連絡するよう書いています。最高裁判所の「mintsに誤アップロードした場合の対応について」は、アップロードした時点で、事件情報に関連付いている相手方当事者なども閲覧・複写ができるようになると注意しています。

手元でも、元の書面とマスキング書面を別のファイルとして持ち、名前で見分けられるようにしておくと、取り違えを防げます。

Fuseji(伏字)は、日本語の PDF から氏名・住所・電話番号・口座番号などを候補として示し、選んだ部分を下の文字ごと焼き込む Mac アプリです。営業秘密のように自動では見つけられない部分は、ページ上をドラッグして「範囲として消す」候補に足せます。元のファイルは変更せず、いつも別名で書き出し、書き出した直後に消した語が残っていないかを自動で確かめます。書き出したファイルの名前は、提出先の案内に合わせて付け直してください。

出す時期と、決定のあとに出す書面

書面を出すのと同時に

規則 第 34 条第 2 項のとおり、自分が出す書面について申し立てるときは、その書面を出すときに申し立てます。東京地方裁判所の案内は「準備書面,書証等の提出と同時又は提出後速やかに申立てをしてください。」としたうえで、申立てをする前に第三者が書面を閲覧してしまった場合には「閲覧等制限の要件を欠いてしまうことがあります。」と注意しています。

決定で範囲が変わったら、作り直す

規則 第 34 条第 5 項は、決定で特定された秘密記載部分が、申立てで特定した部分と違うときは、申立てをした人が「遅滞なく、当該申立てに係る文書等から当該決定において特定された秘密記載部分を除いたもの」を作って出すよう定めています。

決定は、あとから出す書面には及ばない

東京地方裁判所の案内は、決定の効力が及ぶのは決定で特定された部分に限られ、「たとえ同じ秘密であっても,決定後に作成又は提出された書面等に含まれる秘密記載部分にはその効力が及びません。」と書いています。あとの書面に同じ秘密を書けば、その都度、新たな申立てとマスキング書面が要ります。同じ案内は、すでに制限された書面の該当箇所を引用するにとどめるなどの工夫を求めています。

手順のまとめ

  1. 提出先の裁判所の案内を読む:この記事で見たのは東京・大阪の両地方裁判所の知的財産権部の案内です。事件を提起した日(令和 8 年 5 月 21 日の前か後か)で、書面で出すか電子で出すかも変わります
  2. 秘密を別紙などにまとめて書面を作る:特定もマスキングも少なくて済みます
  3. 申立書では位置で示す:ページ・行・見出しの番号、または別紙のマスキング部分。秘密そのものは書かない
  4. マスキング書面を作る:秘密の部分だけを、下の文字ごと消す。マーカーや黒い四角を重ねただけにしない
  5. 出す前に確かめる:文字を選択・コピー・検索して読めないか。申し立てた範囲より広く消していないか。PDF なら 剥がしテスト(無料)でも調べられます
  6. 書面と同時に申し立てる:電子提出では、2 つのファイルの上げ先とファイル名を取り違えない
  7. 決定が出たら範囲を見直す:決定の範囲が違えばマスキング書面を作り直す。あとの書面には同じ秘密を書かない

士業の方向けの Fuseji の使い方は 士業の方へ、価格は 価格 にあります。

このページは、参考に挙げた法令と裁判所の資料の要点を整理したものです。案内は裁判所や部、版によって違うことがあります。個別の事件で何が秘密に当たるか、制限が認められるか、どこをマスキングするかは、担当の弁護士や裁判所に確認してください。

参考