情報公開請求で部分開示するときの黒塗り — 不開示情報の除き方と、電子データで渡すときの注意
先に結論
国の行政機関に情報公開請求(行政文書の開示請求)が届き、文書の一部に出せない情報が含まれているとき、担当者は「黒塗り」をした写しを用意することになります。このページは、その作業の前に押さえておきたいことを、行政機関情報公開法(行政機関の保有する情報の公開に関する法律)の条文と、厚生労働省の審査基準の言葉で並べます。
- 出せない部分だけを除いて、残りは開示する:法第 6 条第 1 項は、不開示情報が記録されている部分を容易に区分して除くことができるときは、その部分を除いた部分を開示しなければならない、と定めています
- 個人の情報は、名前などの部分だけを除けばよい場合がある:同じ条の第 2 項は、氏名など特定の個人を識別できる部分を除けば個人の権利利益が害されるおそれがないときは、残りを開示する、と定めています
- 除いた部分は、内容が分からないようにする:厚労省の審査基準は、「除く」を、内容が分からないように墨塗り・被覆などをして物理的に除去すること、と説明しています
どの情報が不開示情報に当たるか、どこまで除くかは、開示する機関が 1 件ずつ判断します。このページは判断の代わりにはなりません。迷うときは、機関の審査基準を確かめ、担当部署や専門家に確認してください。
情報公開請求と、保有個人情報の開示請求の違い
情報公開請求は「何人も」できる
法第 3 条は、「何人も、この法律の定めるところにより、行政機関の長」に対し、行政文書の開示を請求することができる、と定めています。請求する人は、文書に書かれた本人である必要はありません。
本人からの請求でも、扱いは変わらない
厚生労働省の審査基準(不開示情報に関する判断基準・別添 2)は、この制度は何人に対しても、請求の目的を問わず請求を認めていることから、「本人から、本人に関する情報の開示請求があった場合にも、開示請求者が誰であるかは考慮されない。」と書いています。本人が自分の情報を見たいときの仕組みは、個人情報保護法の保有個人情報の開示請求で、こちらは別の制度です。
保有個人情報の開示請求や、事業者が本人からの開示請求に応じる場面は、開示請求に応じるときの黒塗りと、不開示の理由の示し方 にまとめています。このページは、誰でも請求できる行政文書の情報公開を扱います。
不開示情報になる「個人に関する情報」
第 5 条に並ぶ不開示情報
法第 5 条は、行政文書に不開示情報が記録されている場合を除き、行政文書を開示しなければならない、と定めています。不開示情報として各号に挙がっているのは、個人に関する情報(第 1 号)、行政機関等匿名加工情報など(第 1 号の 2)、法人などに関する情報(第 2 号)、国の安全など(第 3 号)、公共の安全と秩序の維持(第 4 号)、審議・検討・協議に関する情報(第 5 号)、事務や事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある情報(第 6 号)です。このページでは第 1 号を中心に見ます。
氏名だけではない
第 1 号は、個人に関する情報であって、「当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの」を挙げています。厚労省の審査基準は、「その他の記述等」の例として、住所、電話番号、役職名、個人別に付された記号・番号(振込口座番号、試験の受験番号、保険証の記号番号など)を挙げています。
さらに、その情報だけでは識別できなくても、ほかの情報と照合すれば識別できるものも含まれます(第 1 号の括弧書き)。審査基準は、照合の対象となる「他の情報」について、何人も開示請求できることから、「仮に当該個人の近親者、地域住民等であれば保有している又は入手可能であると通常考えられる情報も含まれると解する。」と書いています。名前を消しても、地名や日付、役職の組み合わせで誰のことか分かってしまうことがある、という指摘です。
開示される個人の情報もある
第 1 号のただし書は、法令の規定や慣行として公にされている情報(イ)、人の生命・健康・生活・財産を保護するため公にすることが必要な情報(ロ)、公務員等の職務の遂行に係る情報のうち、その職と職務遂行の内容に係る部分(ハ)を、不開示情報から除いています。
公務員の氏名については、総務省の情報公開制度のページに載っている情報公開に関する連絡会議の申合せ「各行政機関における公務員の氏名の取扱いについて」(平成 17 年 8 月 3 日)が、職務遂行に係る情報に含まれる職員の氏名は、「特段の支障の生ずるおそれがある場合を除き、公にするものとする。」としています。文書に出てくる名前を一律に塗ればよいわけではありません。
部分開示の 2 つの決まり(第 6 条)
第 1 項:不開示の部分を除いて、残りを開示する
法第 6 条第 1 項は、行政文書の一部に不開示情報が記録されている場合に、「不開示情報が記録されている部分を容易に区分して除くことができるときは、開示請求者に対し、当該部分を除いた部分につき開示しなければならない。」と定めています。ただし、除いた残りの部分に有意の情報が記録されていないと認められるときは、この限りでない、とも書いています。
厚労省の審査基準(部分開示の方法に関する判断基準・別添 4)は、「有意の情報が記録されていない」場合の例として、残りの部分が「無意味な文字、数字等の羅列となる場合等」を挙げています。この判断は請求者の意図によらず、客観的に決めるものだ、とも書いています。
第 2 項:個人を識別できる部分だけを除く
同じ審査基準によれば、個人識別情報は、通常、個人を識別させる部分(たとえば氏名)と、そのほかの部分(たとえばその個人の行動記録)からなり、全体で 1 つの不開示情報になります。第 1 項だけでは全体が不開示になってしまうため、第 2 項が特例を置いています。
第 2 項は、氏名、生年月日その他の特定の個人を識別することができることとなる記述等の部分を除くことで、公にしても個人の権利利益が害されるおそれがないと認められるときは、残りの部分を第 1 号の情報に含まれないものとみなして、第 1 項を適用する、と定めています。
ただし、審査基準は、識別できる部分を除いても開示が不適当なものもあるとして、「カルテ、作文等の個人の人格と密接に関連する情報や個人の未公表の研究論文等」を挙げています。名前を消せば出せる、とは限りません。
「除く」とは、どう消すことか
内容が分からないように、墨塗り・被覆する
厚労省の審査基準は、「除く」を次のように説明しています。
「不開示情報が記録されている部分を、当該部分の内容が分からないように墨塗り、被覆等を行い、行政文書から物理的に除去することを意味する。」
消し方の選び方については、全体を黒く塗るか、判読できない程度に被覆するか、主要な部分だけ塗りつぶすかなどの方法の選択は、「不開示情報を開示した結果とならない範囲内において」、その方法を講ずることの容易さなどを考慮して判断する、と書いています。どの方法でも、除いたはずの情報が読めてしまってはいけない、という条件が付いています。
どの単位で除くか
同じ審査基準は、部分的に削除すべき範囲は、文書であれば、一般的には文や段落、表であれば個々の欄などを単位として判断すれば足りる、と書いています。紙の文書については、「コピー機で作成したその複写物に墨を塗り再複写する等して行うことができ」るとし、部分開示の作業に多くの時間や労力がかかることは、ただちに区分・分離が困難ということにはならない、とも書いています。
文字の内容のほかにも、個人が分かるものがある
審査基準は、文章の内容に不開示情報が含まれなくても、特徴のある筆跡で特定の個人を識別できる場合や、録音の声で個人を識別できる場合を挙げ、そうした部分は区分して除くことが困難な例だとしています。手書きの申請書や、録音・録画の記録を扱うときは、文字の内容だけを見ていると見落とします。
PDF などの電子データで開示するとき
写しが電子データのまま渡ることがある
開示の実施の方法は、法第 14 条と施行令 第 9 条が定めています。施行令 第 9 条第 3 項は、電磁的記録の開示の方法として、用紙に出力したものの閲覧や交付のほか、光ディスクに複写したものの交付や、電子情報処理組織を使って開示を受ける者のパソコンなどのファイルに複写させる方法を挙げています(行政機関がその保有する処理装置とプログラムで行えるものに限る、などの条件があります)。
紙に出力して渡すなら、塗った跡がそのまま紙に残ります。一方、PDF などのファイルのまま渡すと、ファイルの中身ごと相手に届きます。ここで黒塗りのやり方を誤ると、紙では起きない失敗が起きます。
黒い四角を重ねただけにしない
PDF の上に注釈や図形で黒い四角を重ねただけだと、文字の層がある PDF では、下の文字がファイルの中に残っています。文字を選んでコピーすると、除いたはずの氏名や住所が読めてしまいます。塗りが薄くて下の文字が透ける、という失敗もあります。どちらも、審査基準の言う「不開示情報を開示した結果」になりかねません。
電子データで除くときは、下の文字ごと消す(焼き込み)方式を使います。PDF の作者・タイトルなどの文書情報や、しおり・添付ファイルにも名前が残っていないかを見てください。失敗の型と見分け方は 黒塗りが「見える」「剥がせる」原因と、渡す前の確かめ方 にまとめています。渡す前の PDF は 剥がしテスト(無料)で、黒い四角の下に文字が残っていないか、見えない文字や文書情報が残っていないかを調べられます。
Fuseji で除く場合
Fuseji(伏字)は、日本語の PDF と画像から氏名・住所・電話番号などの個人情報を候補として示し、選んだ部分を下の文字ごと焼き込むアプリです。プロ版・事務所版では、行政機関情報公開法 第 5 条の各号を墨消しの理由として最初から選べます。氏名・住所などには第 1 号、会社名などには第 2 号が自動で入り、「法5条1号」のような理由を黒塗りの中に白い文字で入れて焼き込めます。理由ごとの件数とページ、理由を付けていない箇所の数は検証レポートに残ります(消した語そのものは載りません)。書き出した直後に、消した語が残っていないかを自動で確かめます。
検出は「候補の提示」で、漏れがないことを保証するものではありません。最終的な確認は画面で行ってください。どこを除くか、どの号に当たるかを決めるのは、Fuseji ではなく開示する機関です。情報公開の担当の方向けの説明は 開示請求に対応する方へ にあります。
手順のまとめ
- 期限を確かめる:開示決定等は、原則として開示請求があった日から 30 日以内にします(法第 10 条。延長などの決まりもあります)。部分開示の作業の時間を見込んでおく
- 原本は残す:行政文書そのものには手を加えず、写しを作ってから除く
- 不開示情報を洗い出す:氏名だけでなく、住所・電話番号・役職名・番号、照合すれば個人が分かる記載、筆跡や声も見る
- 開示する個人の情報を分ける:公務員の職と職務遂行の内容、公にされている情報など、ただし書に当たるものは除かない。判断は機関の審査基準に従う
- 除く範囲と理由を記録する:箇所ごとに、どの号に当たるとしたかを残しておくと、通知の作成や問い合わせへの対応で迷わない。理由の書き方や様式は機関の規程に従う
- 内容が分からないように除く:紙ならコピーに墨を塗ってさらにコピーする。PDF なら焼き込み方式で
- 読めないことを確かめる:透けていないか、文字を選んでコピーできないか、文書情報に名前が残っていないかを確かめる
法人などの第三者に関する情報が記録されているときは、開示決定等の前にその第三者に意見書を出す機会を与えることができ、場合によっては与えなければならない、という決まりもあります(法第 13 条)。手続きの詳しい扱いは、機関の規程と審査基準を確かめてください。
このページは、参考に挙げた法令・審査基準・申合せの要点を整理したものです。地方公共団体の情報公開は、それぞれの情報公開条例によります。個別の請求で何を除くか、どの号に当たるかは、機関の審査基準を確かめ、担当部署や専門家に確認してください。価格は 価格 にあります。
参考
- 行政機関の保有する情報の公開に関する法律(e-Gov 法令検索)第 3 条・第 5 条・第 6 条・第 10 条・第 13 条・第 14 条:https://laws.e-gov.go.jp/law/411AC0000000042
- 行政機関の保有する情報の公開に関する法律施行令(e-Gov 法令検索)第 9 条:https://laws.e-gov.go.jp/law/412CO0000000041
- 厚生労働省「厚生労働省が保有する行政文書の開示請求に対する開示決定等に係る審査基準」:https://www.mhlw.go.jp/jouhou/koukai03/index.html
- 同 不開示情報に関する判断基準(法第 5 条関係・別添 2):https://www.mhlw.go.jp/jouhou/koukai03/02.html
- 同 部分開示の方法に関する判断基準(法第 6 条関係・別添 4):https://www.mhlw.go.jp/jouhou/koukai03/04.html
- 情報公開に関する連絡会議申合せ「各行政機関における公務員の氏名の取扱いについて」(平成 17 年 8 月 3 日・総務省の情報公開制度のページに掲載):https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/gyoukan/kanri/jyohokokai/pdf/110624_01.pdf
- 総務省「情報公開制度の紹介」:https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/gyoukan/kanri/jyohokokai/shoukai.html