過去に出した黒塗りの PDF を点検する — 範囲の決め方から、剥がせるものが見つかったときの対応まで
先に結論
黒い四角を重ねただけの黒塗りは、画面では消えて見えます。そのため、作った人も受け取った人も気づかないまま、何年も前の PDF がウェブサイトや相手の手元に残っていることがあります。このページでは、その点検の進め方をまとめます。
点検は、次の 4 つの順に進めると迷いません。
- 範囲を決める:どこに出した、いつからの、どの PDF を見るか。いまも公開しているものを先にする
- 1 本ずつファイルの中を確かめる:画面で黒く見えるかではなく、下に文字が残っていないかを見る
- 結果を記録に残す:どのファイルを、いつ、誰が、どう確かめたか
- 見つかったら、組織として対応する:個人情報保護委員会のガイドラインが、漏えい等の事案が発覚したときに講ずべき措置を示している
剥がせる PDF が見つかったとき、それが法律上の「漏えい」や報告の対象に当たるかは、個別の判断です。このページは考え方の整理までにとどめます。判断に迷うときは、個人情報保護委員会のガイドラインを確かめ、専門家に相談してください。
黒塗りが剥がせる仕組みと失敗の型は 黒塗りした PDF の文字が見えてしまう原因と、渡す前の確かめ方 に、報じられた事故と組織の手順書のひな形は 黒塗りが剥がせた事故から学ぶこと にまとめています。
なぜ過去の PDF を点検するのか
画面で見ても分からない
PDF の黒塗りには、黒い四角を上に重ねただけのものと、下の文字ごと消したもの(焼き込み)があります。前者は、文字を選んでコピーしたり、黒い四角を動かしたりすると、下の文字が読めてしまいます。ところが画面ではどちらも同じように黒く見えるので、出した当時に気づかなかったものは、そのまま残り続けます。
一度外に出た PDF は、手元で直しても戻らない
メールで送った PDF や、提出した PDF は、相手の手元に残っています。手元のファイルを直しても、相手の持っているファイルは変わりません。ウェブサイトに載せた PDF は、載せている間は誰でも取り出せます。
個人情報保護委員会の「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」は、個人データの「漏えい」を「個人データが外部に流出すること」と説明し、該当する事例として「システムの設定ミス等によりインターネット上で個人データの閲覧が可能な状態となっていた場合」を挙げています(3-5-1-2)。剥がせる黒塗りの PDF がこの事例と同じに扱われるかを、このページは判断しません。ただ、見えない状態にしたつもりが、実は読める状態で外にあった、という点は似ています。早く見つけるほど、取れる手が多くなります。
点検する範囲を決める
どこに出した PDF か
まず、黒塗りをして外に出した PDF が、どこにあるかを洗い出します。
- 自分たちのウェブサイトに載せている PDF:お知らせ・公表資料・事例の紹介・採用のページなど。いまも誰でも開ける状態にある
- 共有のリンクで渡した PDF:クラウドのフォルダの共有リンクを、作業が終わったあとも開けるままにしていないか
- 提出・送付した PDF:裁判所・役所・金融機関・取引先・依頼者などにメールや電子申請で出したもの
先に見るもの
すべてを一度に見られないときは、順番を決めます。目安は次のとおりです。
- いまも公開しているもの:ウェブサイトや開いたままの共有リンク。見つかればすぐに止められる
- 消した中身が重いもの:マイナンバー、口座番号、病歴などの要配慮の情報、住所を知られてはいけない人の住所
- 人数が多いもの:名簿や一覧表を黒塗りして出したもの
- やり方が分からないもの:誰がどの道具で黒塗りしたか記録が無いもの
手元に「出した版」が残っているか
点検は、相手に渡したのと同じファイルで行います。作業の途中の版や、消す前の原本を見ても意味がありません。出した版が手元に無いときは、送ったメールの添付や、公開しているページから取り直します。
1 本ずつ確かめて、記録に残す
手でできる確かめ方
特別な道具が無くても、次のことは試せます。
- 全体を選んでコピーする:全体を選んでコピーし、テキストエディタに貼り付けて、黒塗りしたはずの語が出てこないかを見る
- 検索する:黒塗りしたはずの氏名や番号で検索して、見つからないかを見る
- 文書のプロパティを見る:作成者・タイトルなどに、消したはずの名前が残っていないか
- しおり・注釈・添付ファイルを見る:本文とは別の場所に、名前や元の文章が残っていないか
ただし、手で試す方法では、白い文字やとても小さい文字、編集前の版の履歴のように、見落としやすいものがあります。
紙を塗ってスキャンした PDF
紙の書類をペンで塗ってからスキャンした PDF は、ファイルの中に下の文字のデータはありません。気をつけるのは、塗りが薄くて下の文字が透けていないかです。画面で拡大して確かめます。スキャンしたあとに文字認識(OCR)で検索できるようにしている PDF は、文字の層が付いています。その層に何が入っているかも、コピーや検索で確かめます。詳しくは スキャンした PDF の黒塗り の記事で扱っています。
道具で調べる
Fuseji の 剥がしテスト(無料)は、黒い四角の下に残った文字、白い文字・とても小さい文字・ページの外に置かれた文字、作成者などの文書情報、注釈・添付ファイル・しおりなどをまとめて調べます。検査は Mac の中だけで行い、ファイルを外に送りません。アプリを入れられない環境なら、ブラウザで剥がしテスト で、PDF をブラウザの中だけで調べられます(画像の中の文字は、この道具では調べていません)。
点検の記録を残す
確かめた結果は、一覧にして残します。あとで「どこまで見たか」を説明するときにも、次の点検のときにも使えます。列の例は次のとおりです。
- ファイル名と、出した先(ウェブサイトの URL・提出先・送付先)
- 出した日と、いまも公開しているか
- 消した情報の種類(氏名・住所・番号など)と、おおよその人数
- 確かめた日・確かめた人・確かめた方法
- 結果(問題なし・剥がせる・判断できない)と、その後の対応
一覧そのものにも、消したはずの語を書き写さないようにします。「3 ページ目の氏名」のように、場所と種類だけを書けば足ります。
剥がせる PDF が見つかったら
ガイドラインが示す 5 つの措置
個人情報保護委員会のガイドライン(通則編)3-5-2 は、民間の事業者について、「漏えい等又はそのおそれのある事案」が発覚した場合は、内容等に応じて、次の事項について必要な措置を講じなければならない、としています。
- 事業者内部における報告及び被害の拡大防止:「責任ある立場の者に直ちに報告するとともに、漏えい等事案による被害が発覚時よりも拡大しないよう必要な措置を講ずる。」
- 事実関係の調査及び原因の究明
- 影響範囲の特定
- 再発防止策の検討及び実施
- 個人情報保護委員会への報告及び本人への通知
点検で見つけた PDF に当てはめると、まず担当の責任者に伝え、公開しているものは掲載や共有のリンクを止める、が最初の一歩になります。「責任ある立場の者」について、同じ委員会の Q&A は、役職は限定されていないとしたうえで、「あらかじめ、取扱規程等により、漏えい等事案が発覚した場合の適切かつ迅速な報告連絡体制を整備しておくことが必要です。」と書いています(Q6-3)。点検を始める前に、見つかったら誰に伝えるかを決めておくと、慌てずに済みます。
「閲覧されないうちに回収した」と言えるか
ガイドライン(通則編)3-5-1-2 は、「個人データを第三者に閲覧されないうちに全てを回収した場合は、漏えいに該当しない。」としています。どういう場合がこれに当たるかについて、Q&A は、ネット上で閲覧できる状態になっていた場合に、閲覧できない状態にするまでの間に第三者が閲覧していないことが「アクセスログ等から確認された場合」を事例に挙げ、あわせて「誤送信先の取扱いやアクセスログ等が確認できない場合には、漏えい(又は漏えいのおそれ)に該当し得ます。」と書いています(Q6-1)。
ウェブサイトに載せていた PDF なら、サーバーのアクセスログが残っているかを、早めに確かめておくとよいでしょう。メールで送った PDF なら、相手に連絡して、そのファイルを使わずに消してもらうよう頼むことも検討します。
報告が要るかは、個別に確かめる
同じガイドラインの 3-5-3 は、委員会への報告の対象となる事態として、要配慮個人情報が含まれる場合、不正に利用されると財産的被害が生じるおそれがある場合、不正の目的をもって行われたおそれがある行為による場合、本人の数が千人を超える場合を挙げています。「おそれ」については、「その時点で判明している事実関係からして、漏えい等が疑われるものの漏えい等が生じた確証がない場合」がこれに当たる、と説明しています。
見つかった PDF がどれに当たるか、当たらないかを、このページで決めることはできません。ガイドラインの原文を確かめ、専門家に相談してください。報告の対象に当たらない場合でも、ガイドラインは任意の報告ができるとしています。
なお、令和 8 年 7 月 17 日に、個人情報保護法の改正法が公布されました。委員会が公表している概要には、漏えい等が起きたとき、「本人の権利利益の保護に欠けるおそれが少ない場合は、本人への通知義務を緩和する。」とあります。委員会は、施行に向けて政令・規則・ガイドラインなどの検討を続けるとしています。報告や通知の決まりを確かめるときは、その時点の委員会の案内を見てください。このページは民間の事業者向けの通則編をもとにしています。国の行政機関や地方公共団体などは、それぞれに当てはまる決まりを確かめてください。
元のファイルから、下の文字ごと消してやり直す
出し直しが必要なら、剥がせる PDF の上から黒い四角を重ね直すのではなく、消す前の元のファイルから、下の文字ごと消す(焼き込み)方式でやり直します。やり直した PDF も、出す前にもう一度確かめます。
点検を一度で終わらせない
原因を手順に戻す
ガイドラインの 5 つの措置には、原因の究明と再発防止策が入っています。点検で剥がせるものが見つかったら、担当者の不注意で終わらせず、どの手順が抜けていたかを確かめます。消し方が決まっていなかったのか、出す前に確かめる人がいなかったのか、確かめ方が画面を見るだけだったのか。手順書の項目の例は 黒塗りが剥がせた事故から学ぶこと に並べています。
これから出すものは、出す前に確かめる
過去の点検は、一度やれば終わりではありません。これから出す PDF を出す前に確かめる手順が無ければ、同じものが少しずつ増えていきます。出す前の確認を手順に入れ、そのときに残す記録を、上の点検の一覧と同じ形にしておくと、次に点検するときの手間が減ります。
Fuseji で点検する
Fuseji(伏字)は、日本語の PDF と画像から、氏名・住所・電話番号などの個人情報を候補として示し、選んだ部分を下の文字ごと焼き込む Mac アプリです。過去の PDF の点検では、次のように使えます。
- 剥がしテストで調べる:ほかの道具で黒塗りした PDF を選ぶと、残っている文字・見えない文字・注釈・添付ファイル・文書情報などを一覧で示します。無料版でもずっと使えます。スキャンした画像だけの PDF も、Mac の文字認識で読み取って調べます
- 見つかったら消し直す:元の PDF を Fuseji で開けば、検出・確認・書き出しに進めます。元のファイルは変更せず、いつも別名で保存します。書き出した直後に、消した語が残っていないかを自動で確かめます
- 消し直すファイルが多いとき:プロ版以上の一括処理で、フォルダの中の PDF に同じ辞書とルールを当てて、確認待ちの一覧を作れます
検出は「候補の提示」で、漏れがないことを保証するものではありません。最終的な確認は画面で行ってください。価格は 価格、無料版は ダウンロード から入手できます。
このページは、参考に挙げた個人情報保護委員会の資料から分かることを整理したものです。見つかった PDF が漏えい等に当たるか、報告や本人への通知が要るかは、個人情報保護委員会のガイドラインを確かめ、専門家に確認してください。
参考
- 個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」(平成 28 年 11 月・令和 8 年 6 月一部改正)3-5-1-2・3-5-2・3-5-3-1:https://www.ppc.go.jp/personalinfo/legal/guidelines_tsusoku/
- 個人情報保護委員会 Q&A(Q6-1):https://www.ppc.go.jp/all_faq_index/faq1-q6-1/
- 個人情報保護委員会 Q&A(Q6-3):https://www.ppc.go.jp/all_faq_index/faq1-q6-3/
- 個人情報保護委員会「令和8年 改正個人情報保護法について」:https://www.ppc.go.jp/personalinfo/legal/r8kaiseihogohou/
- 個人情報保護委員会「個人情報保護法等の一部を改正する法律について」(概要):https://www.ppc.go.jp/files/pdf/260717_kaiseihounitsuite.pdf