確定申告書の写しを融資や補助金に出すとき、マイナンバーはどうする?
先に結論
融資の申込み(公庫・民間銀行)や補助金の申請で、マイナンバーの記載された確定申告書のコピーを求められたら、マイナンバーを「黒塗りして読み取れないようにしてから」提出することが、提出先それぞれの公式の手順として案内されています。日本政策金融公庫のインターネット申込 Q&A は「マイナンバー(個人番号)が記載されている場合は、黒塗りして読み取れないようにしてからご提出ください」と明記し、小規模事業者持続化補助金の事務局も「マイナンバーが記載されている場合は、番号が見えないよう黒塗りしてご提出ください」と案内しています。
背景には、番号法(行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律)第 19 条の趣旨があります。マイナンバーを含む特定個人情報は、番号法で認められた事務以外では原則として提供を制限されているため、提出先は「マイナンバーは不要なので黒塗りして出す」と求めています。「復元できない程度にマスキング」という言い方は、個人情報保護委員会の資料でも使われています(支払調書の写しを本人に渡す場面の FAQ など)。黒塗りは、下の文字が読み取れない形にすることが前提です。
このページでは、提出先の公式手順、番号法 19 条の趣旨、実際に何をどこまで隠すか、黒塗りで実際に起きている失敗、最後に手順のまとめを述べます。会計事務所・税理士事務所が顧客を補助金の申請に出す場面を想定しています。
融資・補助金の公式手順
主要な提出先が、マイナンバーをどう扱うかを、公式の案内に沿って整理します。
日本政策金融公庫(インターネット申込)の確定申告書
公庫のインターネット申込(事業資金)の Q&A は、「確定申告書一式をご提出ください。また、マイナンバー(個人番号)が記載されている場合は、黒塗りして読み取れないようにしてからご提出ください」と案内しています。申告者本人が番号を最初から書かなければ、黒塗りの必要はありません。会計事務所が代理で出すときは、番号を黒塗りしたコピーを顧客から受け取って出すか、番号が書かれていない申告書を使うか、のどちらかになります。
銀行・ローン審査の年収確認書類
民間銀行のローン審査でも、同様の取扱いが案内されています。ソニー銀行は「源泉徴収票 マイナンバーの記載がある場合は、該当箇所を塗りつぶしてください」「確定申告書 マイナンバーの記載がある場合は、該当箇所を塗りつぶしてください」と案内しています。年収の確認書類として源泉徴収票か確定申告書のどちらかを求め、いずれの場合もマイナンバーを隠したコピーを出す手順が案内されています。
小規模事業者持続化補助金
日本商工会議所の小規模事業者持続化補助金の申請要項は、令和元年度補正の回の案内で「マイナンバー(12 桁の個人番号)の提供は不要のため、提出書類にマイナンバーが記載されている場合は、番号が見えないよう黒塗りしてご提出ください」と案内しています。最新の公募要領の記載は別途確認するようにしてください。
補助金の申請で求められているのは、事業の規模を示す確定申告書 第一表・第二表・収支内訳書・所得税青色申告決算書などであり、マイナンバーは必要ありません。提出書類の段階で番号が見えないようにしておくことが、審査を先に進める前提です。
番号法 19 条と「復元できない程度」の整理
「マイナンバーを黒塗りして読み取れないようにする」という案内は、提出先ごとの事務の都合ではなく、番号法 第 19 条(特定個人情報の提供の制限)の趣旨に沿った整理です。
番号法 19 条の趣旨
番号法では、マイナンバーを含む個人情報(特定個人情報)の提供を原則として制限し、法律に定められた事務(社会保障・税・災害対策)または本人・国の機関等の例外にあたるときだけ、他者に提供できるとされています。融資の申込みや補助金の申請は、番号法で認められた「マイナンバーを提供してよい事務」に含まれていないため、提出先は「マイナンバーは不要なので黒塗りして出す」と求めています。
「復元できない程度」の言い回しは PPC の FAQ でも使われている
個人情報保護委員会の FAQ(Q5-8-2)は、「本人の個人番号を含めて全ての個人番号を記載しない措置や復元できない程度にマスキングすれば、番号法上の提供制限の適用を受けない」と整理しています。これは「支払調書等の写しを本人に送付する」場面の案内です。「復元できない程度」という言い方は、PPC の FAQ でも使われている表現です。
不十分なマスキングは違反事例になっている
個人情報保護委員会の「特定個人情報を取り扱う際の注意ポイント」は、「マスキング処理が不十分なまま(簡単に剥がれるテープを張っただけのもの)、特定個人情報が記載された書類を、特定個人情報を取り扱わないこととなっている委託事業者に引き渡していた」という事例を紹介し、「個人番号部分を、復元不可能な程度にマスキング(マジック等で黒塗りしたものをコピーするなど)した上で、渡すようにしましょう」と整理しています。剥がせるテープ・マジックで塗ってコピーしていないもの・テキストの該当部分が残っているものは、いずれも「復元不可能な程度」に該当しないとされています。
この整理は、融資・補助金の申請でマイナンバーを黒塗りするときにも当てはまります。「黒い四角を重ねただけ」や「マジックで塗ってだけでコピーしていない」は、いずれも「復元不可能な程度」になっていません。書き出しの段階で、下の文字ごと消す(焼き込み)(PDF を黒塗り(墨消し)する正しい方法 で整理している、専用機能またはページ画像として作り直す手順)ことが、めやすになります。
何を隠すか
融資・補助金の申請で確定申告書を出すとき、マイナンバーの黒塗りだけをして、他の個人情報をそのまま残してしまうケースがあります。審査で本当に必要な情報は売上・所得・事業の規模であり、マイナンバー以外の個人情報(住所・電話番号・口座番号・扶養家族の氏名など)は、申請要項で「不要」とされている範囲で残しても差し支えないことがありますが、番号が分かると他の書類と結びつけて個人が特定されるため、番号だけは確実に消す必要があります。
マイナンバーのある場所
確定申告書(A4 サイズの第一表・第二表など)の本人欄に、12 桁のマイナンバーが記載されます。次の 2 つのうち、提出する書類のどこかに番号があるかを確認します。
- 確定申告書 第一表:本人情報の欄。住所・氏名・生年月日・マイナンバーなど
- 確定申告書 第二表:配偶者・親族の欄など。本人以外のマイナンバーが記載されることがある
本人欄のマイナンバーは 12 桁で、最初の 11 桁+検査用の数字(チェックデジット)という組合せで、他の 12 桁の数字(口座番号・注文番号・会員 ID など)と区別できます。マイナンバーが載った PDF を社外に渡す前に で整理したとおり、本当にマイナンバーの形式に合っている 12 桁だけを消すことで、消すべき番号を残し、消さなくてよい数字まで消してしまうことを避けられます。
一緒に消したい情報
マイナンバーを消しても、残った情報から個人が特定されることがあります。提出先で「不要」とされている情報は、隠す候補に挙げるほうが安全です。
- 住所
- 生年月日(年だけで個人を絞り込めることがある)
- 電話番号(固定・携帯)
- 口座番号(銀行名・支店名・口座番号・名義)
- 家族の番号(同じ書類に載っていれば消す)
提出要項で「黒マーカーで塗りつぶし可」と案内されているときは、塗りつぶしたあと、もう一度コピーしてから提出することで、下の文字が残らない形にできます。塗りが薄いと透けて読めることがあるためで、PPC は「マジック等で黒塗りしたものをコピーする」ことを例に挙げています。一度塗ってコピーしないまま提出するのは、個人情報保護委員会の整理で「復元不可能な程度」に該当しないとされています。
黒塗りで実際に起きている失敗
融資・補助金の申請でマイナンバーを黒塗りするときに、実際に起きている失敗の型を 3 つに分けて整理します。共通する見落としは、黒塗りが「見える」「剥がせる」原因と、渡す前の確かめ方 でまとめた 5 つの型とほぼ同じです。
塗ってあるのに番号が読み取れる(塗りとコピーの 2 段を踏まない)
提出要項で「黒マーカーで塗りつぶしてください」と案内されている場合、塗っただけでコピーせずに元の PDF をそのまま出す人がいます。塗りが薄いと透けて読めることがあるため、PPC は塗ったものをコピーすることを例に挙げています。「塗ったあと、もう一度コピーして、塗りの下の文字が見えないことを確かめる」の 2 段を踏まないと、「復元不可能な程度」にはなりません。
本人欄は隠したが、家族の欄や所得の内訳の欄の番号を残した
申告書には、本人欄のほかに、配偶者・親族の欄などがあり、マイナンバーが記載されることがあります。本人欄だけ隠して、家族の欄の番号をそのまま出してしまうのは、番号の隠しもれになります。提出前にページをめくって、12 桁の数字が他にもないかを 1 ページずつ探すことが必要です。
PDF に直接黒い四角を置いただけ(下の文字データが残る)
PDF のビューアや注釈機能(四角形のシェイプ)で黒い四角を置いただけの場合、下の文字データはそのまま残っています。融資審査や補助金審査の担当者は Acrobat などのツールで文字を抜き出せるため、画面では消えていても提出先では判読できるという事故になります。下の文字ごと消す(焼き込み)か、下の文字データを消す墨消し機能のいずれかが必要です。
手順のまとめ
融資・補助金の申請でマイナンバーが記載された確定申告書を出すときの流れを、提出前・保管に分けて整理します。
提出前
- 提出要項を確認する:公庫・銀行・補助金の要項で、マイナンバーの黒塗りが案内されているかを確認する
- 申告書のコピーを用意する:原本の PDF をそのまま使うのではなく、黒塗りの作業用のコピーを作る。原本を上書きする手順は避ける
- 本人欄のマイナンバーを隠す:12 桁の数字を探す。本人欄のマイナンバーを四角で囲む/黒マーカーで塗る/ページ画像として作り直す。配偶者・親族の欄にも番号がないかを確認する
- 塗った場合は、もう一度コピーして下の文字が残っていないかを確かめる:文字を選べる PDF なら ⌘A → ⌘C で全選択して別のテキストエディタに貼り付け、番号が抜き出せないことを確認する
- 一緒に消したい情報の最終確認:住所・電話・口座番号・家族の情報で、不要なものは隠す
- 提出版に名前を変えて保存する:「原本控:[原本名]_墨消し.pdf」のように、隠した版が分かるファイル名で保存する
提出後と保管
- メール添付前に番号が見えていないか再確認する:添付した PDF をもう一度開いて、番号が見えていないことを確認する
- 提出した控えを取る:申請の控え・受付の記録とともに、隠した版を手元に残しておく
- 原本の保管期限を決める:原本(マイナンバーが残っている PDF)は、保管期限を決めて管理する
- 原本の保管期限を守る:マイナンバーが残っている原本は、必要な期間が終わったら、ガイドラインに沿った方法で消去する。バックアップ・共有ドライブ・メール添付もまとめて点検する
このページは番号法第 19 条の解釈を断定することを目的とはしていません。個別の場面が番号法のどの規定に当たるか、最終的には個人情報保護委員会のガイドラインや所管官庁の説明、専門家の見解を必ず確認してください。ガイドラインは版で更新されるため、参照した版を書き添えておくのが安全です。
参考
- 日本政策金融公庫「インターネット申込(事業資金)の手続きに関する Q&A」:https://www.jfc.go.jp/n/service/pdf/internet_faq.pdf
- 日本商工会議所「小規模事業者持続化補助金 申請について」:https://r1.jizokukahojokin.info/index.php/sinsei/
- ソニー銀行「ご提出書類|カードローン」:https://sonybank.jp/products/cl/05.html
- 個人情報保護委員会 FAQ Q5-8-2:https://www.ppc.go.jp/all_faq_index/faq5-q5-8-2/
- 個人情報保護委員会「特定個人情報を取り扱う際の注意ポイント」:https://www.ppc.go.jp/files/pdf/cautionary_points.pdf
- 番号法(行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律)第 19 条