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公益通報の調査報告書を社内で共有するとき — 通報者を特定させない書き方と消し方

先に結論

公益通報に対応すると、受付の記録や調査のメモ、聞き取りの記録、調査報告書などの書類ができます。これらを経営陣や関係部署、外部の弁護士などに回すこともあります。そのとき気をつけたいのが、書類から通報者が分かってしまうことです。

押さえることは 3 つです。

  • 名前を消すだけでは足りないことがある。消費者庁の指針の解説は、性別のような一般的な属性でも、ほかの事項と照らし合わせて通報者だと判断できるなら「公益通報者を特定させる事項」に当たるとしています
  • 見せる人を必要最小限にする。指針は、通報者を特定させる事項を必要最小限の範囲を超えて共有すること(範囲外共有)を防ぐ措置を、事業者に求めています
  • 記録・資料の固有名詞は仮称にする・伏せる。指針の解説は、通報事案の記録・資料に載っている関係者(通報者を含む)の固有名詞を仮称で書くことを、取組の例に挙げています

このページは、公益通報者保護法と消費者庁の指針・指針の解説の言葉どおりに、この 3 つを整理します。個別の事案で、どの記載が通報者を特定させるか、どこまで共有してよいかの判断はしません。社内の担当部署や弁護士などの専門家に確認してください。

「公益通報者を特定させる事項」とは

氏名・社員番号だけではない

消費者庁の「公益通報者保護法に基づく指針(令和 3 年内閣府告示第 118 号)の解説」は、この言葉を次のように説明しています(注 6)。

「公益通報者の氏名、社員番号等のように当該人物に固有の事項を伝達される場合が典型例であるが、性別等の一般的な属性であっても、当該属性と他の事項とを照合させることにより、排他的に特定の人物が公益通報者であると判断できる場合には、該当する。」

報告書から氏名を消しても、「経理課の女性社員が 4 月の締めの作業中に気づいた」と書けば、その条件に当てはまる人が 1 人しかいない職場では、誰のことか分かってしまいます。消すかどうかを考える対象は、名前の欄だけでなく、所属・役職・性別・時期・場所・その人しか知り得ない事実の書き方まで広がります。

書類の外の情報とも照らし合わせられる

照らし合わせる「他の事項」は、書類の中だけにあるとは限りません。読む人が職場の配置や勤務の予定を知っていれば、書類の記載と結びつけられます。誰が読むのかを決めてから、その人が持っている情報と組み合わせて通報者が分からないかを見る、という順で確かめると漏れにくくなります。

法律と指針が求めること(2026 年 12 月の改正まで)

窓口の担当者の守秘義務(第 12 条)

公益通報者保護法 第 12 条は、通報の受付・調査・是正の業務(公益通報対応業務)に従事する人について、「正当な理由がなく、その公益通報対応業務に関して知り得た事項であって公益通報者を特定させるものを漏らしてはならない。」と定めています。違反して漏らした人には、三十万円以下の罰金の定めがあります(現行の第 21 条)。

事業者の体制の整備(第 11 条)と、300 人の区分

第 11 条は、事業者に、この業務に従事する人を定めることと、通報に適切に対応するための体制の整備などを求めています。ただし第 3 項で、常時使用する労働者の数が三百人以下の事業者については、これらは努力義務と読み替えられます。

体制の中身は、内閣府の告示である指針が決めています。指針は、範囲外共有を「公益通報者を特定させる事項を必要最小限の範囲を超えて共有する行為」と定め、事業者の労働者や役員が範囲外共有をするのを防ぐ措置と、起きたときの救済・回復の措置を求めています。あわせて、通報者を特定しようとする行為(通報者の探索)を、やむを得ない場合を除いて防ぐ措置も求めています。

2026 年 12 月 1 日から:通報者探索の禁止が法律に入る

令和 7 年に公布された改正法は、消費者庁のページによると令和 8 年(2026 年)12 月 1 日から施行されます。e-Gov 法令検索の施行予定の条文では、新しい第 11 条の 3(通報者探索の禁止)が、事業者は「正当な理由がなく、公益通報者である旨を明らかにすることを要求することその他の公益通報者を特定することを目的とする行為をしてはならない。」と定めています。

指針と指針の解説も、令和 8 年 3 月 31 日に改正され、同じ日から施行されます。改正後の指針は、項目の名前を「範囲外共有、通報妨害及び通報者探索の防止に関する措置」としています。守秘義務の罰則の条は、施行後は第 22 条になります。社内の規程を見直すときは、消費者庁のページで改正後の指針と解説の原文を確かめてください。

調査の記録・報告書を回すとき

固有名詞を仮称にする・伏せる

指針の解説は、範囲外共有を防ぐ取組の例(受付時の取組等)として、今の版で「通報事案に係る記録・資料に記載されている関係者(公益通報者を含む。)の固有名詞を仮称表記にすること等も考えられる。」と書いています。2026 年 12 月 1 日から施行される改正後の解説では、ここが「仮称表記・マスキングにすること」になっています。

仮称にするなら、報告書を書く段階で「通報者」「A 氏」「B 課」のように置き換えておくのが確実です。仮称と実名の対応表は、報告書とは別に、見られる人を限って保管します。

見せる人と保管の方法を決める

同じ解説は、範囲外共有を防ぐ措置の例として、次のようなものを挙げています。

  • 「通報事案に係る記録・資料を閲覧・共有することが可能な者を必要最小限に限定し、その範囲を明確に確認する」
  • 「通報事案に係る記録・資料は施錠管理する」
  • 電子的に管理する場合は、閲覧できる人を必要最小限に限定し、「操作・閲覧履歴を記録する」

記録の保管についても、記録には「公益通報者を特定させる事項等の機微な情報が記載されていることを踏まえ」、閲覧やアクセスに制限を付けるなど慎重に保管する必要がある、としています。

調査を頼む相手に、通報が契機だと伝えない工夫

解説は調査時の取組として、従事者以外の人に調査を頼むときに、調査が公益通報を契機としていることを伝えないことも挙げています。例として「抜き打ちの監査を装う」「核心部分ではなく周辺部分から調査を開始する」などです。調査を頼む文書や添付する資料にも、通報があったことや通報の文面がそのまま載っていないかを見ておきます。

通報者への通知と、社内への実績の開示

通報者に結果を伝えるとき

指針は、書面で通報を受けた場合、是正の措置をとったときや通報対象事実がなかったときに、その旨を「適正な業務の遂行及び利害関係人の秘密、信用、名誉、プライバシー等の保護に支障がない範囲において」通報者に速やかに通知するよう求めています。

解説は、「調査過程において誰が何を証言したか、人事処分の詳細な内容等はプライバシーに関わる場合もある」として、対応の結果を伝えるべきではない場合も想定されるとしています。通報者に渡す文書は、調査報告書をそのまま渡すのではなく、伝える範囲を決めて作り直すか、証言者などの情報を消してから渡すことになります。

社内に運用の実績を開示するとき

指針は、窓口に寄せられた通報の運用実績の概要を、労働者などに開示することも求めています。解説は、実績の例として通報件数・是正の有無・対応の概要などを挙げたうえで、「開示の内容・方法を検討する際には、公益通報者を特定させる事態が生じないよう十分に留意する必要がある。」と書いています。件数が少ない部署や、時期が特定できる書き方は、上で見た照らし合わせで通報者が分かることがあります。

PDF で消すときの失敗と、渡す前の確かめ方

黒い四角を重ねただけでは、下の文字が残る

調査報告書や聞き取りの記録を PDF にして回すとき、PDF の上に注釈や図形で黒い四角を重ねただけだと、文字の層がある PDF なら下の文字がファイルの中に残っています。文字を選んでコピーすると、隠したはずの名前が読めてしまいます。紙に印刷してペンで塗った場合は、塗りが薄くて下の文字が透けることがあります。

画面で消すなら、下の文字ごと消す(焼き込み)方式を使います。やり方は PDF を黒塗り(墨消し)する正しい方法 に、失敗の型は 黒塗りが「見える」「剥がせる」原因と、渡す前の確かめ方 にまとめています。

本文の外にも名前は残る

PDF には、本文のほかに文書情報(作成者など)・注釈・しおり・添付ファイルが入っていることがあります。通報者が出した資料を報告書の別添にするときは、その PDF の作成者の欄に通報者の名前が入っていないかも見ておきます。消したあとの PDF は 剥がしテスト(無料)で、黒い四角の下の文字や見えない文字、文書情報が残っていないかを調べられます。

Fuseji で消す場合

Fuseji(伏字)は、PDF の個人情報を候補として示し、選んだ部分を下の文字ごと焼き込む Mac のアプリです。ページを画像として作り直すので、文字の情報・文書情報・注釈・添付ファイル・見えない文字は残りません。関係者の名前を「常に消す語」に入れておけば、どの書類でも候補に挙がります。ページの上でドラッグすれば、所属や時期を書いた一文のような部分も範囲として消せます。書き出した直後に、消した語が残っていないかを自動で確かめます。処理はすべて Mac の中で行うので、記録を外のサービスに上げる必要はありません。

検出は「候補の提示」で、漏れがないことを保証するものではありません。属性の組み合わせで通報者が分かるかどうかは、アプリでは判断できません。最終的な確認は画面で行ってください。士業の方の使い方は 士業の方へ にあります。

手順のまとめ

  1. 読む人を決める:経営陣・関係部署・外部の専門家・通報者本人など、渡す相手ごとに、何を見せる必要があるかを決める
  2. 書く段階で仮称にする:通報者や関係者の固有名詞を仮称で書き、対応表は別に限られた人だけで保管する
  3. 属性の組み合わせを見直す:所属・役職・性別・時期・場所・その人しか知り得ない事実の書き方で、通報者が分からないかを、読む人が持っている情報と合わせて確かめる
  4. 相手ごとに消す:通報者に渡す文書からは証言者などの情報を、社内に開示する実績からは通報者が分かる書き方を消す
  5. 下の文字ごと消す:PDF では黒い四角を重ねるのではなく、焼き込みで消す。別添の資料の文書情報も見る
  6. 消えたことを確かめる:文字を選んでコピーできないか、文書情報が残っていないかを確かめる
  7. 見られる人と保管を限る:閲覧できる人を必要最小限にし、施錠やアクセスの制限、閲覧の履歴を残す

このページは、参考に挙げた公益通報者保護法と消費者庁の指針・指針の解説の要点を整理したものです。個別の事案でどの記載を消すか、どこまで共有してよいかは、社内の担当部署や弁護士などの専門家に確認してください。価格は 価格 にあります。

参考