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カルテ開示で伏せる部分・絞る部分 — 第三者の情報と外部への回答

先に結論

診療録(カルテ)などの写しを外に出す場面は、大きく 2 つに分かれます。患者本人や遺族に開示する場面と、保険会社・警察・共同研究先など、本人以外に提供する場面です。官公庁の資料が書いていることは、場面ごとに違います。

  • 本人への開示:厚生労働省の「診療情報の提供等に関する指針」は、第三者の利益を害するおそれがあるときなどに、「全部又は一部を提供しないことができる」と書いています。例に挙がっているのは、家族や患者の関係者が医療従事者に伝えた情報です
  • 保険会社への提供:医療・介護関係事業者ガイダンスの Q&A は、提供する範囲を本人に具体的に説明し、意思を確認するよう書いています
  • 警察・検察からの照会:同じ Q&A は、求められた情報以外を提供すると損害賠償を請求されるおそれも否定できない、と書いています
  • 共同研究先・製薬企業への症例の提供:個人情報保護委員会の Q&A は、不要な氏名・生年月日等は「削除又は置換」することなどが考えられる、と書いています

注意したいのは、「消しなさい」と書いているのは最後の 1 つだけで、それも「考えられます」という書き方だという点です。ほかは、提供しないことができる、範囲を確かめる、求められた範囲にとどめる、という話です。どこを伏せるかの判断は、1 件ずつ、施設の担当や専門家と決めることになります。このページは、その判断のための材料として、原文の言葉を場面ごとに並べます。

カルテ開示で「提供しないことができる」場面

「診療情報の提供等に関する指針」(平成 15 年 9 月 12 日 医政発第 0912001 号)の 8 は、次のように書いています。

「医療従事者等は、診療情報の提供が次に掲げる事由に該当する場合には、診療情報の提供の全部又は一部を提供しないことができる。① 診療情報の提供が、第三者の利益を害するおそれがあるとき」

同じ指針には、次の場合が挙がっています。

「患者の状況等について、家族や患者の関係者が医療従事者に情報提供を行っている場合に、これらの者の同意を得ずに患者自身に当該情報を提供することにより、患者と家族や患者の関係者との人間関係が悪化するなど、これらの者の利益を害するおそれがある場合」

たとえば、家族が医師に話した患者の様子や事情が、記録にそのまま書かれていることがあります。それを本人に見せることで、家族との関係が悪くなるおそれがある。指針が想定しているのは、こうした場面です。

ここで大事なのは、指針の言葉が「提供しないことができる」だという点です。家族が伝えた情報を必ず伏せなさい、とは書いていません。伏せるかどうかは、事例ごとの判断です。この場面には、個人情報保護法 第 33 条第 2 項第 1 号と、医療・介護関係事業者ガイダンスの Ⅳ14(2)も関わります。個別の事例が当たるかは、ガイダンスを確かめ、施設の顧問弁護士や個人情報の担当に相談してください。

伏せる範囲は 1 件ずつ選ぶ

指針には、伏せる項目の一覧がありません。氏名や番号のように決まった欄があるわけではなく、記録の中の、ある人が話した部分が対象になります。そのため、伏せる範囲は記録を読みながら 1 か所ずつ選ぶことになります。

伏せる前に決めておくこと

  • 誰が決めるか:伏せるかどうかの判断と、伏せる範囲を選ぶ作業を、誰が行い誰が確かめるか
  • 何を伏せたかの記録:あとで本人から「なぜ見えないのか」と問われたときに、どのページのどこを伏せたかを説明できるようにしておく
  • 原本は残す:診療録そのものには手を加えず、写しを作ってから伏せる

伏せる部分と一緒に見る場所

家族の発言を伏せても、同じページにその家族の氏名・続柄・連絡先が残っていると、誰が話したかが分かってしまうことがあります。発言の部分だけでなく、その人を示す欄も合わせて見ます。ただし、どこまで伏せるかは、開示の目的と照らして決めます。伏せすぎると、本人が知りたい診療の経過まで読めなくなります。

保険会社への提供は、範囲を本人に確かめる

民間の保険会社から、診療の内容について照会が来ることがあります。医療・介護関係事業者ガイダンスの Q&A(4-6)は、次のように書いています。

「医療機関が民間保険会社に第三者提供を行う際に、提供する個人データの範囲(いつからいつまでの時期の情報を提供するのか、診療録の要約等を作成するのか、検査結果のデータも提供するのか、など)や、どのような形態で提供するかなどについて、具体的に説明し本人の意思を確認する必要があると考えます。」

この Q&A は「消す」とは書いていません。書いているのは、どの期間の、どの情報を、どの形で出すかを本人に説明して確かめる、ということです。本人が同意した範囲の外にある部分を写しから外す、という場面では、伏せることが手段の 1 つになります。

警察・弁護士会からの照会への回答

警察・検察からの照会

同じ Q&A(4-24・4-25)は、警察・検察からの照会への回答について、次のように書いています。

「求められた情報以外の情報を提供した場合には、損害賠償を請求されるおそれも否定できません。」

ここも「消せ」とは書いていません。求められた範囲を超えて出さない、という注意です。照会の文書で求められている期間・項目を確かめ、それ以外のページや欄を出さない。写しの一部に求められていない情報が混ざるときに、その部分を伏せることが考えられます。

弁護士会照会

弁護士法 第 23 条の 2 による弁護士会照会について、Q&A(4-4)は「弁護士会への回答に当たっては、「法令に基づく場合」に相当するため、本人の同意を得ずに個人データの第三者提供を行うことができます。ただし、回答するか否かについては個別の事例ごとに判断する必要があります。」と書いています。何を伏せるかの定めは、この Q&A にはありません。

裁判所から診療録の写しを求められたときなども、伏せてよいかを書いた官公庁の文は、私たちが調べた範囲では見つかりませんでした。こうした場面は、施設の顧問弁護士や診療情報管理の担当に確認してください。

共同研究先・製薬企業への症例の提供

個人情報保護委員会の Q&A(7-24・7-25)は、医療機関が共同研究機関や製薬企業に臨床症例を提供する場面について、次のように書いています。

「当該医療機関等が提供する個人データは、利用目的の達成に照らして真に必要な範囲に限定することが必要です。具体的には、利用目的の達成には不要と考えられる氏名、生年月日等の情報は削除又は置換した上で、必要最小限の情報提供とすることなどが考えられます。」

この場面では、受け渡しが表のデータになることも多いでしょう。症例の写しを PDF で渡すときは、氏名・生年月日など、目的に要らない部分を消してから渡す、という使い方になります。ただし、消したからといって「匿名加工情報」になるとは限りません。症例報告・学会発表の場面は 症例報告・学会発表の前に消す患者の情報 にまとめています。

PDF で伏せるときの注意

黒い四角を重ねただけにしない

開示や回答の写しを PDF で作るとき、注釈や図形で黒い四角を重ねただけだと、下の文字はファイルの中に残っています。文字を選んでコピーすると、伏せたはずの家族の発言が読めてしまいます。PDF で伏せるなら、下の文字ごと消す(焼き込み)方式を使います。やり方は PDF を黒塗り(墨消し)する正しい方法 に、失敗の型は 黒塗りが「見える」「剥がせる」原因と、渡す前の確かめ方 にまとめています。渡す前の PDF は 剥がしテスト で、黒い四角の下に文字が残っていないかを調べられます。

Fuseji の使いどころ

Fuseji(伏字)は、日本語の PDF と画像から、氏名・住所・生年月日・電話番号や、「患者ID」「カルテ番号」の後ろの番号などを候補として示し、選んだ部分を下の文字ごと焼き込むアプリです。家族の発言のように決まった形の無い部分は、ページの上でドラッグして範囲を囲んで消します。書き出した直後に、消した語が残っていないかを自動で確かめ、結果を検証レポートとして PDF・CSV で残せます(個人版以上)。レポートには、墨消しの件数が種類別・ページ別に載ります。原本のファイルは上書きせず、消した写しを別のファイルとして書き出します。

検出は「候補の提示」です。漏れがないことを保証するものではないので、最終的な確認は画面で行ってください。どこを伏せるかを決めるのも、Fuseji ではなく施設の判断です。

医療情報システムの安全管理に関するガイドラインは、「医療情報の持ち出しが可能なネットワークサービスについては、企画管理者が承認したもののみを利用できる措置を講じることが必要となる。」と書いています。Fuseji は処理をすべて Mac の中で行い、書類そのものや見つけた語を送らないので、書類の送り先が増えません。導入の可否は、施設の情報システムの担当に確認してください。医療機関向けの説明は 医療機関・研究者の方へ、価格は 価格 にあります。

このページは、参考に挙げた指針・ガイダンス・Q&A の要点を整理したものです。個別の開示や回答で何を伏せるか、伏せてよいかは、施設の担当部署や顧問弁護士に確認してください。

参考