補助金の報告に賃金台帳を出すとき — 消してよい氏名・消さない氏名
先に結論
補助金の報告で賃金台帳を出すとき、「従業員の名前は全部消してよいのか」と迷うことがあります。ものづくり・商業・サービス補助金(以下、ものづくり補助金)の事務局は、この点を資料の中ではっきり書いています。
- 全従業員の賃金台帳では、従業員の氏名のみをマスキングすることを事務局が推奨しています。
- ただし、事業場内最低賃金で働く従業員の氏名(フルネーム)はマスキングしないよう求めています。
- マスキングの対象として書かれているのは氏名です。金額や労働時間など、報告に必要な記載は残します。
つまり、対象の人以外の氏名は消し、対象の人の氏名は消さない、という選び分けが要ります。全部を一律に黒く塗ると、事務局の案内と合わなくなります。
このページは、事務局の資料「賃金台帳のご提出方法」の言葉を引きながら、消す範囲と残す範囲を整理します。融資や補助金に確定申告書の写しを出すときのマイナンバーの扱いは、確定申告書の写しを融資や補助金に出すとき、マイナンバーはどうする? にまとめています。
事業化状況報告で出す 2 種類の賃金台帳
報告は補助事業の終了後に何回もある
ものづくり補助金の公式サイトの「事業化状況報告」のページは、「全ての補助事業者様は、補助事業終了後、5年間にわたり合計6回、以下の内容を報告する必要があります。」と書いています。報告する内容の 1 つが「報告年3月分の賃金台帳」です。
1 回きりの提出ではないので、毎回同じ考え方でマスキングできるよう、手順を決めておくと楽になります。
準備するのは 2 種類
事務局の資料「事業化状況報告:賃金台帳の提出方法」(令和 8 年 4 月の版。公式サイトでは最終更新日 令和 8 年 7 月 22 日)は、補助事業の実施場所と同じ住所地で働く従業員について、次の 2 種類の賃金台帳を準備するよう書いています。
- 全従業員の「3月分の賃金台帳」
- 事業場内最低賃金で働く従業員の「3月分の賃金台帳」
2 つ目については、「対象者が複数名の場合、そのうちの1名分の賃金台帳のみご添付ください」とあります。
「3 月分」の見分け方
資料の記入例は、台帳に「3 月」の記載が無い場合でも、賃金計算期間の最終日(締め日)か支給日が 3 月 1 日〜3 月 31 日の間であることが分かれば可、としています。2 回目以降の報告では「毎年同じ処理月度の賃金台帳(給与台帳)をご提出ください」とも書かれています。
提出は PDF で
提出の方法は、「必要事項を記載した賃金台帳をPDFファイルにして、事業化状況報告システムに添付をお願いします。」です。紙の台帳でも、給与ソフトから出した台帳でも、最後は PDF にして添付することになります。このため、PDF でのマスキングの仕方 が仕上がりを左右します。
消してよい氏名・消さない氏名
全従業員の賃金台帳: 氏名はマスキングを推奨
資料の「書類の準備方法」には、次の 2 文が並んでいます。
「※①の賃金台帳の従業員の氏名(個人情報)のみを黒く塗りつぶす等のマスキングを施すことを推奨いたします。」
「(事業場内最低賃金で働く従業員の氏名(フルネーム)はマスキングしないでください)」
①は全従業員の賃金台帳のことです。全従業員の台帳の記入例にも、「事業場内最低賃金で働く従業員以外の氏名はマスキングしていただいて結構です」「事業場内最低賃金で働く従業員名はマスキングしないでください」と書き添えられています。
事業場内最低賃金で働く従業員の賃金台帳: 氏名を残す
2 つ目の台帳の記入例は、確認できるようにしておく事項の 1 つに「「事業場内最低賃金で働く従業員の氏名(フルネーム)」が記載されている」を挙げています。この台帳では、その人の氏名を消してはいけません。
選び分けで起きやすい失敗
選び分けが要る作業では、次のような失敗が起きやすくなります。
- 全員の名前を消してしまう:全従業員の台帳で、対象の人の名前まで消す。記入例は、この台帳でも対象の人の名前を残すよう書いています
- 名前の一部だけ残す・一部だけ消す:資料は「氏名(フルネーム)」と書いています。姓だけ、名だけにしないよう気をつけます
- 1 ページ目だけ処理する:台帳が何ページにもわたるとき、2 ページ目以降の氏名が残る
- 表の外の氏名を見落とす:台帳の作りによっては、表の行の見出しのほかにも氏名が書かれていることがあります
誰が「事業場内最低賃金で働く従業員」に当たるかは、事務局の資料と手引きで確かめてください。迷うときは事務局に問い合わせるのが確実です。
氏名以外は消さずに残す
事務局が確かめる事項
マスキングの範囲として資料が書いているのは「氏名(個人情報)のみ」です。記入例は、それぞれの台帳で確認できるようにしておく事項を挙げています。
- 全従業員の賃金台帳:事業化報告年の 3 月の賃金台帳であること・「事業者名」・「従業員数(役員・専従者を除く)」(従業員数は最初のページに記入)
- 事業場内最低賃金で働く従業員の賃金台帳:3 月の賃金台帳であること・「事業者名」・その従業員の氏名(フルネーム)・時給換算額の計算式
時給換算額の計算式は、資料では「(基本賃金+最低賃金の対象となる手当)÷(所定労働時間)=(時給換算額)」と示されています。必要事項は「余白への手書きも可」とされています。
労働基準法 第 108 条の記載事項
今の版の資料は、「【労働基準法第108条】に基づく所定事項の記載のある下記の賃金台帳をご準備ください。」と書いています。
労働基準法 第 108 条は、使用者は事業場ごとに賃金台帳を作り、「賃金計算の基礎となる事項及び賃金の額その他厚生労働省令で定める事項」を記入しなければならない、と定めています。その省令である労働基準法施行規則 第 54 条は、労働者ごとに記入する事項として、次のものを挙げています。
- 氏名・性別・賃金計算期間・労働日数・労働時間数
- 時間外・休日・深夜に労働させた場合の、延長時間数・休日労働時間数・深夜労働時間数
- 基本給・手当その他賃金の種類ごとの額
- 法第 24 条第 1 項の規定で賃金の一部を控除した場合の、その額
こうした記載が揃っていることを前提に、氏名だけを消す、というのが事務局の案内の形です。金額の欄や労働時間の欄まで黒くすると、確認に必要な情報も消えてしまいます。なお資料は、決まった様式は無く、3 月分の「対象賃金・月間総労働時間」の必須データについて一覧表での提出も可、としています。
ほかの補助金と、マイナンバーの扱い
ほかの補助金は、その事務局の案内を確かめる
このページで引いたのは、ものづくり補助金の事務局の案内です。ほかの補助金や助成金でも同じとは限りません。
たとえば、事業再構築補助金の事務局の資料「電子申請にあたってご注意いただくこと」は、事業場内最低賃金を示すための賃金台帳について、労働基準法に基づく項目として「労働者氏名」を含む 10 の項目が網羅されていることを求めています。この資料には、マスキングについての記載はありません。
出す先ごとに、事務局の最新の案内を確かめてから消す範囲を決めてください。分からないときは、消す前に事務局に問い合わせるのが確実です。
マイナンバーが載っているとき
上に挙げた施行規則 第 54 条の記載事項には、個人番号(マイナンバー)は含まれていません。一方で、ものづくり補助金の「賃金台帳のご提出方法」には、賃金台帳にマイナンバーが載っている場合の扱いは書かれていません。
提出する台帳に、法定の項目以外の情報が印字されていないかを、PDF にする前に確かめてください。マイナンバーが載っていたときの扱いは、事務局の案内と、個人情報保護委員会の「特定個人情報の適正な取扱いに関するガイドライン(事業者編)」を確かめ、必要に応じて専門家に相談してください。マイナンバーの載った PDF 全般の注意は マイナンバーが載った PDF を社外に渡す前に にまとめています。
PDF にして添付するときの注意
黒い四角を重ねただけにしない
給与ソフトや表計算ソフトから書き出した PDF は、文字を選んでコピーできることがよくあります。こうした PDF に、注釈や図形で黒い四角を重ねただけだと、下の文字はファイルの中に残っています。黒い四角の上から文字を選んでコピーすると、消したはずの名前が読めてしまいます。
PDF で消すときは、下の文字ごと消す(焼き込み)方式を使います。手順は PDF を黒塗り(墨消し)する正しい方法 に、失敗の型は 黒塗りが「見える」「剥がせる」原因と、渡す前の確かめ方 にまとめています。
紙に塗ってスキャンするとき
印刷した台帳に手で塗り、必要事項を余白に手書きしてからスキャンする方法もあります。このときは、塗りが薄いと下の文字が透けて読めることがあります。スキャンした画像を拡大して、名前が読めないことを確かめてください。
添付する前に確かめる
添付する PDF は、黒い四角の下に文字が残っていないか、見えない文字や作成者などの文書情報が残っていないかを、剥がしテスト(無料)で調べられます。あわせて、対象の人の氏名が残っていることと、事業者名・従業員数・3 月分であることが読めることも、目で確かめます。消しすぎると、事務局が確かめる事項まで読めなくなります。
Fuseji の使いどころ
Fuseji(伏字)は、日本語の PDF から氏名・住所・電話番号・個人番号などを候補として示し、選んだ部分を下の文字ごと焼き込むアプリです。候補は右の一覧で消す・残すを選べるので、「対象の人の名前は残し、ほかの人の名前は消す」という選び分けを、画面で確かめながら行えます。同じ語は文書全体に一括で追加でき、決まった形の無い部分はページの上でドラッグして囲んで消せます。書き出した直後に、消した語が残っていないかを自動で確かめます。原本は変更せず、いつも別名で書き出します。
検出は「候補の提示」で、漏れがないことを保証するものではありません。最終的な確認は画面で行ってください。マイナンバーの載った書類向けの説明は マイナンバーを扱う方へ、価格は 価格 にあります。無料版でも検出・確認・書き出し・剥がしテストが使えます(書き出したファイルに透かしが入ります)。
手順のまとめ
- 出す先の案内を確かめる:ものづくり補助金なら、公式サイトの「事業化状況報告」のページで最新の「賃金台帳のご提出方法」を開く。ほかの補助金は、その事務局の案内を確かめる
- 2 種類の台帳を用意する:全従業員の 3 月分と、事業場内最低賃金で働く従業員(複数なら 1 名分)の 3 月分
- 必要事項が読めるか確かめる:3 月分であること・事業者名・従業員数・対象の人の氏名(フルネーム)・時給換算額の計算式
- 法定の項目以外の情報が無いか見る:マイナンバーなどが印字されていたら、扱いを事務局や専門家に確かめる
- 原本は残す:元のファイルや紙の台帳には手を加えず、写しを作ってから消す
- 対象の人以外の氏名だけを消す:全ページ・表の外の欄まで見る。対象の人の氏名は消さない
- 下の文字ごと消す:PDF なら焼き込み方式で。紙なら塗りが透けないことを確かめてからスキャンする
- 添付の前に確かめる:剥がしテストで残りが無いかを調べ、消しすぎていないかも目で見る
このページは、参考に挙げた事務局の資料と法令の要点を整理したものです。どの従業員が対象に当たるか、どこまで消すかは、出す先の事務局の案内を確かめ、必要に応じて事務局や専門家に確認してください。
参考
- ものづくり・商業・サービス補助金事務局(全国中小企業団体中央会)「事業化状況報告:賃金台帳の提出方法」(令和 8 年 4 月。公式サイトの最終更新日 令和 8 年 7 月 22 日):https://portal.monodukuri-hojo.jp/common/bunsho/jigyouka/賃金台帳のご提出方法_20260722.pdf
- ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金 公式ホームページ「事業化状況報告」:https://portal.monodukuri-hojo.jp/jigyouka.html
- 事業再構築補助金事務局「電子申請にあたってご注意いただくこと」:https://jigyou-saikouchiku.go.jp/pdf/shinsei_fubi.pdf
- 労働基準法 第 108 条(e-Gov 法令検索):https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049
- 労働基準法施行規則 第 54 条(e-Gov 法令検索):https://laws.e-gov.go.jp/law/322M40000100023
- 個人情報保護委員会「特定個人情報の適正な取扱いに関するガイドライン(事業者編)」:https://www.ppc.go.jp/legal/policy/my_number_guideline_jigyosha/