成年後見の定期報告で、通帳のコピーのどこを消し、どこを残すか
先に結論
成年後見人・保佐人・補助人は、家庭裁判所に後見等事務報告書と財産目録を出し、通帳のコピーなどの資料を添えます。このとき「個人情報だから」と何でも黒く塗ればよい、というわけではありません。家庭裁判所の案内を読むと、消すものと残すものが分かれています。
- 消すもの:本人のマイナンバー。富山家庭裁判所・京都家庭裁判所の案内は、後見の手続でマイナンバーは要らないとしたうえで、やむを得ずマイナンバーの載った書類を出すときは、その部分を塗りつぶすかマスキングして出すよう書いています。
- 残すもの:口座番号・名義・取引の記載。東京家庭裁判所のハンドブックは、通帳のコピーを「必ず取扱支店名や口座番号が確認できるように」取るよう求めています。表紙・見返し・報告期間の取引のページをそろえて出す、という形は、この記事で見たどの家庭裁判所の案内にも共通しています。
このページは、家庭裁判所が公開している資料の言葉どおりに、この 2 つを整理します。案内は裁判所ごとに違うことがあります。監督を受けている家庭裁判所の案内を確かめてください。調停や審判で出す資料(相手方が閲覧することがある資料)の隠し方は、家庭裁判所に出す資料の個人情報はどう隠す? にまとめています。
定期報告で出すものと、通帳のコピーの範囲
報告書・財産目録と、それを裏付ける資料
東京家庭裁判所の「成年後見人・保佐人・補助人ハンドブック」(令和 7 年 4 月)は、初回報告のあと、原則として年に 1 回、あらかじめ定められた時期に、資料を添えて後見等事務報告書と財産目録を自主的に出すよう書いています。富山家庭裁判所の「成年後見人Q&A」も、報告する月になったら「①後見事務報告書,②財産目録,③預貯金通帳・証書のコピー,④本人収支表を送付してください。」としています。
報告書と財産目録の書式は、裁判所のウェブサイトの後見ポータルに、全国で内容をそろえた統一書式として載っています。財産目録の預貯金の欄には、金融機関の名称・支店名・口座種別・口座番号・最終確認日・残高を書く列があり、添えた資料の写しには、財産目録のどの行に当たるかの番号を右上に書くよう指示されています。
通帳はどのページをコピーするか
通帳のコピーの範囲は、各地の案内でほぼ同じです。
- 表紙:東京家庭裁判所のハンドブックは、表紙には金融機関名、通帳の種類、店番号、口座番号、口座の名義人の氏名などが載っていると説明しています
- 表紙をめくってすぐのページ(中表紙・見返し):口座番号や取扱支店名が載っている部分です
- 報告期間の取引が記帳されたすべてのページ:報告期間の末日を過ぎてから記帳し、そのうえでコピーします
京都家庭裁判所の「早わかり 成年後見人」(令和 7 年 3 月改訂版)は、提出すべき期間の一部がまとめて記帳されていて取引が分からない場合には、金融機関が出す取引履歴明細を出すよう書いています。富山家庭裁判所の Q&A も、「預貯金については,すべての通帳・証書のコピーを添付してください。」としています。
また、出すのは原本ではなくコピーです。東京家庭裁判所のハンドブックは「添付する資料は、原本ではなく必ずコピーを提出してください。」、京都家庭裁判所のハンドブックは「提出された資料はお返しできませんので、必ずコピーを提出し、原本は提出しないようにしてください。」と書いています。黒塗りをするのも、このコピーのほうです。
消すもの: マイナンバー
後見の手続では、マイナンバーは要らない
富山家庭裁判所の「成年後見人Q&A」は、Q20「マイナンバーの取扱い」で、「家庭裁判所における後見関係の手続において,マイナンバーが必要とされることは通常ありません。」と書いています。続けて、次のように案内しています。
「後見事務報告の資料として,やむを得ず本人のマイナンバーが付記された書類を提出する場合には,マイナンバーが記載された部分を黒く塗り潰すなどして,マイナンバー自体を家庭裁判所に提出することがないように御留意ください。」
京都家庭裁判所のハンドブックも同じ方向です。Q25 では、家庭裁判所に出す書類や資料には「マイナンバーの記載は必要ありませんので、書面及び資料の提出の際には、マイナンバーの記載がないものを提出してください。」とし、Q26 では、マイナンバーが載ったものしかない場合について「マイナンバーが記載された部分にマスキング処理(黒塗り処理)を行った書面又は資料を提出してください。」と答えています。
まず「載っていないもの」を用意する
順番として、案内が先に書いているのはマイナンバーの載っていない書類を出すことです。たとえば住民票について、岡山家庭裁判所の「ガイドブック(上)成年後見人等の職務と報告の手引」(2025.4 発行版)は、変更報告に添える住民票について「住民票は、個人番号(マイナンバー)の記載がないものを提出してください。」と書いています。京都家庭裁判所のハンドブックも、住所が変わったときの資料を「住民票(マイナンバーの記載がないもの)」としています。
載っていないものが手に入らず、手元の書類にしか情報がないときに、その部分を塗りつぶして出す。黒塗りは、その場合の手段です。
コピーの段階でマスキングする
旭川家庭裁判所の「家庭裁判所に提出する資料のコピーの取り方(後見等申立用)」は、申立てのときの資料について、「マイナンバーが記載されている書面のコピーを取るときには,必ず,マイナンバー部分をマスキングして見えない状態にしたコピーを取ってください。」と書いています。申立て用の案内ですが、コピーを取る段階で見えなくしておく、という考え方は報告の資料にも通じます。
マイナンバーを渡してよい場面は法律で限られています。後見人として本人のマイナンバーをどう扱うかについて、富山家庭裁判所の Q&A は、本人の状況や手続での必要性などを踏まえて「後見人自らが適切に判断しなければなりません。」としています。個別の扱いに迷うときは、個人情報保護委員会のガイドラインを確かめ、専門家に相談してください。マイナンバーの載った PDF の扱い全般は マイナンバーが載った PDF を社外に渡す前に にまとめています。
消さないもの: 口座番号・名義・取引の記載
報告の中身そのものだから
京都家庭裁判所のハンドブックは、財産目録に書いたそれぞれの財産について、その内容を証する資料を添えるよう書き、預貯金ではその資料を通帳の写しとしています。通帳のコピーは、財産目録の中身を裏付けるものです。東京家庭裁判所のハンドブックは、「通帳又は証書は、必ず取扱支店名や口座番号が確認できるようにコピーを取ってください。」と書いています。コピーを求められている表紙と見返しには、口座番号や名義が載っています。
旭川家庭裁判所の申立て用の案内は、普通預金や通常貯金について「記載のあるページ全部(現在の残高だけでは不可)」としています。東京・京都・富山の案内も、報告期間の取引が載ったページをすべて出すよう求めています。残高だけが読める形で出す、という出し方は、こうした案内と合いません。
「個人情報だから全部塗る」をしない
口座番号・名義・取引の相手先や金額は、ほかの場面なら隠したくなる情報です。しかし定期報告では、それが裁判所の確かめたい中身です。この記事で見た家庭裁判所の資料には、通帳のコピーの口座番号や取引の記載を塗るよう書いたものはありませんでした。塗る範囲を広げると、報告の資料として見せるべき部分まで読めなくなります。
取引の記載の中に、ほかにも消したい情報があると感じたときは、自分で判断して塗る前に、監督を受けている家庭裁判所の案内を確かめるか、担当の書記官に問い合わせてください。
塗り方と、PDF で準備するときの注意
紙で準備するとき
原本の通帳には手を加えず、取ったコピーのマイナンバーの部分を塗ります。マーカーやペンで塗った部分が薄いと、下の数字が透けて読めることがあります。塗ったあと、光にかざしたり、もう一度コピーを取ったりして、読めないことを確かめてから出してください。
スキャンして PDF で整えるとき
事務所で資料をスキャンして PDF で管理し、印刷して出す、という流れもあります。PDF の上で黒い四角(注釈や図形)を重ねただけだと、下の文字や画像はファイルの中に残っています。印刷した紙では黒く見えても、その PDF を控えとして保存したり、ほかの用途に使い回したりすると、塗ったはずの番号が残ったままになります。
PDF で塗るなら、下の文字ごと消す(焼き込み)方式を使います。やり方は PDF を黒塗り(墨消し)する正しい方法 に、失敗の型は 黒塗りが「見える」「剥がせる」原因と、渡す前の確かめ方 にまとめています。塗ったあとの PDF は、剥がしテスト(無料)で、黒い四角の下に文字が残っていないかを調べられます。
何人分も扱う事務所では
何人分もの後見を受けている事務所では、報告の資料も人数分になります。添える書類の中に、マイナンバーの載ったものが混ざっていないかを、1 枚ずつ目で探すことになります。見落としが出やすいのは、こういう作業です。
Fuseji(伏字)は、日本語の PDF と画像から、マイナンバー・氏名・住所・口座番号などを候補として示し、選んだ部分を下の文字ごと焼き込む Mac アプリです。12 桁の数字のうち、マイナンバーの決まり(検査用の数字)に合うものを拾うので、ただの 12 桁の数字と区別できます。文字の無いスキャン PDF は、Mac の文字認識で日本語を読み取ってから探します。書き出した直後に、消した語が残っていないかを自動で確かめます。
定期報告の資料では、口座番号の候補は選ばずに残すことに注意してください。Fuseji は口座番号も候補に挙げますが、どれを消すかは画面で選べます。検出は「候補の提示」で、漏れがないことを保証するものではないので、最終的な確認は画面で行ってください。司法書士の方向けの説明は 司法書士の方へ、価格は 価格 にあります。
手順のまとめ
- 監督を受けている家庭裁判所の案内を読む:書式は全国の統一書式でも、添える資料やコピーの取り方の細部は裁判所ごとに案内があります
- マイナンバーの載っていない書類を用意する:住民票などは、マイナンバーの記載がないものを取る
- 通帳は記帳してからコピーする:表紙・見返し・報告期間の取引のページ。まとめて記帳された部分は、金融機関の取引履歴で補う
- マイナンバーだけを塗る:原本ではなくコピーに。口座番号・名義・取引の記載は残す
- 読めないことを確かめる:紙なら透けていないか。PDF なら下の文字ごと消えているか(剥がしテスト)
- 控えを取って出す:東京・京都・富山の案内は、いずれも出す前に控えを取っておくよう書いています
このページは、参考に挙げた家庭裁判所の資料の要点を整理したものです。案内は裁判所や版によって違うことがあります。個別の報告で何を出し、何を塗るかは、監督を受けている家庭裁判所の案内を確かめ、担当の書記官や専門家に確認してください。
参考
- 富山家庭裁判所「成年後見人Q&A(保佐人・補助人を含む)」(H28.1 版・富山家庭裁判所の成年後見制度のページに掲載)Q3・Q5・Q20:https://www.courts.go.jp/toyama/vc-files/toyama/file/104307.pdf
- 富山家庭裁判所「成年後見制度(後見・保佐・補助)」(上の Q&A の掲載ページ):https://www.courts.go.jp/toyama/saiban/seinenkouken/index.html
- 京都家庭裁判所「成年後見人ハンドブック 早わかり 成年後見人」(令和 7 年 3 月改訂版)Q25・Q26:https://www.courts.go.jp/kyoto/vc-files/kyoto/2024/fckyo/2024yuuken/kouken/sudeni/15_kouken_handbook.pdf
- 東京家庭裁判所後見センター・東京家庭裁判所立川支部後見係「成年後見人・保佐人・補助人ハンドブック(Q&A付き)」(令和 7 年 4 月)定期報告について・コピーの取り方:https://www.courts.go.jp/tokyo-f/vc-files/tokyo-f/kouken/0201R0704.pdf
- 岡山家庭裁判所「ガイドブック(上)成年後見人等の職務と報告の手引」(2025.4 発行版):https://www.courts.go.jp/okayama/vc-files/okayama/seinenkouken_guidebook_jou_202504.pdf
- 旭川家庭裁判所「家庭裁判所に提出する資料のコピーの取り方(後見等申立用)」:https://www.courts.go.jp/asahikawa/vc-files/asahikawa/kasai-kouken-syosiki/ninnikouken/1-02shiryounocopynotorikata.pdf
- 裁判所 後見ポータルサイト「成年後見人・保佐人・補助人の報告書式」(財産目録):https://www.courts.go.jp/saiban/koukenp00/koukenp7/koukenhoukoku1/index.html