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保険証の写しの記号・番号はどう隠す? 受け取った側の義務まで

先に結論

健康保険証の写しを取引や本人確認で求めるときは、「保険者番号・記号・番号」を復元できない程度に隠すのが、厚生労働省の通知での取扱いです。2020 年 10 月に健康保険法などが改正され、被保険者等記号・番号等は、法律で定めた事務を行う場合を除いて、本人や他人のものを「教えて」と求めること自体ができません。写しを取る側、写しを受け取る側、両方に「復元できない程度にマスキングする」義務があると通知で示されています。

このページでは、まず厚労省の通知の趣旨を整理したうえで、消すべき範囲(保険者番号・記号・番号・氏名・住所・生年月日)、受け取った側がやるべきこと、黒塗りで実際に起きている失敗、最後に渡す側・受け側それぞれでできる確かめ方をまとめます。詳しくは PDF を黒塗り(墨消し)する正しい方法 も合わせてどうぞ。

健康保険証の表面には、保険者番号・記号・番号などの被保険者等記号・番号等が記載されています。2020 年 10 月 1 日に施行された改正健康保険法(および同旨の改正国民健康保険法・船員保険法・高齢者の医療の確保に関する法律など)では、これらの記号・番号等を、健康保険事業又はこれに関連する事務の遂行等の目的以外で告知(教えてと求めること)を求めることを禁止する規定が新たに設けられました。背景には、保険証の記号・番号等が個人単位化されたことで、プライバシー保護の必要性が高まったことがあります。

厚生労働省保険局の通知「医療保険の被保険者等記号・番号等の告知要求制限について」(令和 2 年 10 月 5 日付)は、この規定の運用を示しています。通知本体は厚労省のウェブサイトで原文が公開されており、告知要求制限の対象となる記号・番号等の範囲と、本人確認等で保険証の提示・写しの提供を受ける際の留意事項が整理されています。ポイントは次の 3 つです。

  • (1) 教えてよい場面は限られている:保険者、保険医療機関等、指定訪問看護事業者、適用事業所の事業主など、法律で定められた者が、健康保険事業又は関連事務のために必要があるときに限って告知を求められる、という立て付けです。事務所以外の一般事業者が、口座開設・賃貸契約・採用時の本人確認で「記号・番号も書いて」と求めることは、原則として告知要求制限に触れる、と通知は整理しています
  • (2) 写しを取る側にはマスキングの義務がある:通知は、本人確認等のために保険証の写しを取る場合、その写しの被保険者等記号・番号等を「復元できない程度にマスキング」することを求めています。提示を受けるだけで書き写さないこと、写しを取る場合は記号・番号等を隠すことが前提です
  • (3) 写しを受け取る側にも義務がある:通知はさらに、マスキングされた写しの送付を受けること、マスキングが施されていない写しを受けた場合には当該写しの提供を受けた者においてマスキングを施すことを求めています。番号が見えている状態の写しを渡されてしまった場合にも、受け取った側が改めて隠す義務があるということです

個別の場面が告知要求制限のどの規定に当たるかは、所管官庁の説明や顧問の弁護士・社会保険労務士に必ず確認するようにしてください。通知は版で更新されるため、参照した版(令和 2 年 10 月 5 日付)を書き添えておくと、後から参照したときに齟齬に気づきやすくなります。

どんな場面で写しをもらうか

健康保険証の写しが求められる典型的な場面は、おおむね次の 4 つです。

  • 不動産の取引・賃貸契約の申込み:本人確認書類として保険証の写しを求められる
  • 金融の取引(口座開設・ローン申込み等):犯罪による収益の移転防止に関する法律に基づく取引など、本人確認書類として保険証の写しを求められることがある(通知は、犯罪による収益の移転防止に関する法律に基づく本人確認の場面を、告知要求制限の留意点として整理している)
  • 企業の採用時の本人確認:入社時に本人確認書類として保険証の写しの提出を求められる
  • 業務委託先等への提出:業務委託の契約書締結で、本人確認のため保険証の写しを求められる

いずれの場面でも、通知の整理に従えば、保険証の記号・番号等を「復元できない程度にマスキングする」ことが前提です。「記号・番号等まで映した原本の写しを渡してください」という案内が事務方から来ることがありますが、事務方がこの案内をしていること自体が告知要求制限の趣旨と整合的ではないと、通知本文の【別添】は整理しています(「被保険者等記号・番号等の告知を求めているかのような説明を行わないこと」)。

記号・番号を消す範囲

通知の文言どおりに「復元できない程度」に隠す、ということが出発点になります。隠すべき対象は、保険証の表面の被保険者等記号・番号等です。

表面:保険者番号・記号・番号

表面の被保険者等記号・番号等が、通知の主たる対象です。具体的には次の 3 箇所をまとめて隠します。

  • 保険者番号(健康保険組合・協会けんぽ・共済組合などの発行者を示す番号)
  • 記号(アルファベットと数字の組合せ。会社・支部などの単位で割り振られる)
  • 番号(被保険者ごとに割り振られる数字。枝番が付く形式の場合は、枝番も番号の一部として隠す)

これら3 箇所をまとめて隠すことが、通知での「復元できない程度」のマスキングにあたります。「番号だけ隠して記号と保険者番号は残す」というやり方では、3 つの組合せで個人を絞り込めるため、隠した意味が薄くなります。

一緒に消したい情報

記号・番号等を隠しても、本人を特定できる他の情報が同じ面に書かれていることが多いです。通知の趣旨に沿って、併せて消す候補に挙げるものは次のとおりです。

  • 氏名(本人・被扶養者の氏名。ふりがなも)
  • 生年月日(年だけで個人を絞り込めることがある)
  • 住所(被保険者の現住所。住所欄に記載がある場合)
  • 被扶養者の情報(氏名・生年月日・性別・続柄)

これらを残したまま記号・番号等だけ隠しても、保険証の写し単体で個人が特定されることがあります。「記号・番号等だけを隠せば足りる」と考えるのではなく、この写しを受け取った相手が誰かを類推できる情報すべてを併せて消す、という姿勢が安全です。

受け取った側がするべきこと

通知のもう一つの柱が、受け取った側の義務です。先ほど触れたとおり、提供された写しにマスキングが施されていない場合は、提供を受けた側が改めて隠すことが求められています。

  • 申請者から番号が丸見えの写しが届いた:そのまま保管せず、社内で記号・番号等を隠した写しを作り直す。原本の PDF を加工できない場面では、別名で書き出した隠した版を作って運用します。原本はそのまま残し、消した版を別のファイルとして保存するのが、通知の「復元できない程度」のマスキングを満たします
  • ローン審査で送られてきた顧客情報:送られてきた PDF に番号が見えたままになっていたら、取引のためだけに使うとして、社内保管に移す前に隠します
  • 電子申請の添付書類:電子申請の添付として PDF の写しを付ける場合、その時点で既に記号・番号等は隠れている状態にします。通知の整理に従う限り、マスキングして送るのは送る側の責任です

よくある失敗の型

保険証の写しで実際に起きている失敗の型は、黒塗りが「見える」「剥がせる」原因と、渡す前の確かめ方 で整理した 5 つの型とほぼ同じです。保険証特有で注意が要るのは、次の 2 つです。

記号だけ隠して番号を残した/番号だけ隠して記号と保険者番号を残した

通知の主対象は「被保険者等記号・番号等」全体です。記号だけ/番号だけ/保険者番号だけを隠しても、残り 2 つの組合せで個人を絞り込めます。3 箇所をまとめて隠すことが、通知での「復元できない程度」の最低条件です。

PDF に黒い四角を置いただけ/スキャン画像の PDF に「黒く見える」だけで、テキストが残っていた

紙の保険証をスキャンして PDF にしたあと、ビューア上で黒塗りをして保存しても、下の文字データはそのまま残ったままになることがあります。PDF を黒塗り(墨消し)する正しい方法 で整理しているとおり、「黒い四角を重ねただけ」の状態です。下の文字ごと消す(焼き込み)墨消しをすることで、ようやく下の文字データが消えます。

渡す前・受け取った後のチェックリスト

渡す側と受け取った側で、毎回通すチェックリストを分けておきます。

渡す側(顧客・依頼者本人)

  1. 通知の趣旨を確認する:この取引・この手続で、記号・番号等をマスキングした写しで足りるかを、求める事務方の案内で確かめる
  2. 表面の 3 箇所をまとめて隠す:保険者番号・記号・番号を、1 か所にまとめる/四角で囲むなどして一括で隠す
  3. 一緒に消したい情報を確認する:氏名・生年月日・住所・被扶養者の情報が残っていないかを、コピーした状態で確認する
  4. 隠したあと、PDF を開いた状態で確かめる:文字を選べる PDF なら ⌘A → ⌘C で全選択して別のテキストエディタに貼り付け、番号が抜き出せないことを確認する

受け取った側(企業・士業・自治体の窓口)

  1. 届いた時点で番号が見えていないか確認する:顧客・申請者から届いた PDF を開いたとき、表面の 3 箇所が、最初から隠れていることを最初に確かめる
  2. 見えていたら社内で隠した版を作り直す:通知の整理に従い、提供を受けた側が改めて隠す。原本を加工するのではなく、別名で書き出した隠した版を作って運用する
  3. 保管の方法を決める:番号が見えたままの版は、必要な期間だけ保管し、保管期限を過ぎた版は消す。保管期間・消去の手順は、個人情報保護法のガイドライン(個人情報保護委員会)に照らして決める
  4. 審査・照合のときは「消した版」で行う:ローン審査・賃貸審査など、番号そのものを突き合わせる場面ではないときは、消した版で本人確認を行う

「マスキングする」と「確かめる」の 2 段を毎回踏むようにしておくと、こうした通知の整理に沿った取扱いを崩しにくくなります。行政書士・司法書士・社会保険労務士・税理士の事務所が顧客から保険証の写しを受け取って事務に使う場面は、特に受け取った側の義務が重い場面です。顧問の社会保険労務士・弁護士に、この取引が告知要求制限の枠組みに合うか、保管のしかたがガイドラインに沿っているかの 2 点を事前に確認しておくと、迷いにくくなります。

このページは通知の要点をまとめたものです。個別の場面が告知要求制限のどの規定に当たるか、最終的には所管官庁の説明、顧問の弁護士・社会保険労務士の見解を必ず確認してください。通知は版で更新されるため、参照した版(令和 2 年 10 月 5 日付)を書き添えておくのが安全です。

参考

  • 厚生労働省保険局「医療保険の被保険者等記号・番号等の告知要求制限について」(令和 2 年 10 月 5 日付):https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tc5399&dataType=1&pageNo=1
  • 健康保険法 第 194 条の 2(被保険者等記号・番号等の利用制限等)
  • 船員保険法 第 143 条の 2
  • 国民健康保険法 第 111 条の 2
  • 高齢者の医療の確保に関する法律 第 161 条の 2