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保険会社・警察・弁護士会からの照会に回答するとき — 求められた範囲だけを出す

先に結論

医療機関には、患者の診療について外から問い合わせ(照会)が届きます。代表的なのは、民間の保険会社、警察や検察などの捜査機関、弁護士会からの照会です。どれも、回答すれば患者の情報を本人以外に渡すことになります。

個人情報保護委員会と厚生労働省の「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」と、その Q&A(事例集)は、照会の種類ごとに考え方を書いています。要点は次のとおりです。

  • 保険会社:本人の同意が要る場面として挙がっています。「同意書」を示されても、提供する範囲を本人に具体的に説明し、意思を確認する必要がある、と Q&A は書いています
  • 警察・検察:法令に基づく照会は本人の同意なく回答できる、としたうえで、求められた情報以外を出すと損害賠償を請求されるおそれも否定できない、と書いています
  • 弁護士会:本人の同意なく回答できる、としたうえで、回答するか否かは個別の事例ごとに判断する必要がある、と書いています

どの文書も「消しなさい」とは書いていません。共通しているのは、何を、どこまで出すかを先に決めることです。このページは、その決め方と、写しを使って回答するときに範囲を絞る方法を、原文の言葉に沿って整理します。個別の照会に回答するか、どこまで出すかの判断は、施設の担当部署や顧問弁護士、個人情報保護委員会のガイドラインに確認してください。

患者本人や遺族への開示(カルテ開示)で、家族などが伝えた情報を伏せる場面は カルテ開示で伏せる部分・絞る部分 にまとめています。このページは、本人以外からの照会に答える場面に絞ります。

照会の種類と、ガイダンスが書いていること

出発点:本人以外に渡すには、原則として同意が要る

個人情報保護法 第 27 条第 1 項は、個人データを第三者に渡すときは、決められた場合を除いて、あらかじめ本人の同意を得なければならないと定めています。例外の 1 つ目が「法令に基づく場合」(第 1 号)です。照会への回答がこの例外に当たるかどうかで、本人の同意が要るかが分かれます。

民間の保険会社からの照会

ガイダンスは、本人の同意が必要な場合の例として、民間保険会社からの照会を挙げています。生命保険の加入にあたって健康状態などを照会された場合と、交通事故のけがの治療中の患者について損害保険金の支払いの審査のために症状を照会された場合です。どちらも、患者の同意を得ずに回答してはならない、と書いています。

保険会社が患者の署名した「同意書」を示すこともあります。Q&A(4-6)は、その場合でも医療機関は「通常、当該同意書の内容について本人の意思を確認する必要があります。」と書いています。理由として、署名したときは提供してよいと考えていても、その後に考えが変わっている場合もあり得るから、と説明しています。

警察・検察からの照会

Q&A(4-24)は、刑事訴訟法 第 197 条第 2 項に基づく照会は「相手方に報告すべき義務を課すものと解されている」こと、任意捜査への協力は任意であるものの、法令上の具体的な根拠に基づいて行われるものであることから、いずれも「法令に基づく場合」に当たると解されている、と書いています。災害の発生時などに警察が負傷者の住所・氏名や傷の程度などを照会する場合は、同じ条の第 4 号に当たると考えられる、としています。

そのうえで Q&A(4-25)は、こう続けます。

「もっとも、求められた情報以外の情報を提供した場合には、損害賠償を請求されるおそれも否定できません。」

弁護士会からの照会

弁護士法 第 23 条の 2 は、弁護士が受任している事件について、所属する弁護士会を通じて、公務所や公私の団体に照会して必要な事項の報告を求める仕組みを定めています。Q&A(4-4)は、弁護士会への回答は「法令に基づく場合」に相当するため本人の同意を得ずに提供できる、としたうえで、「ただし、回答するか否かについては個別の事例ごとに判断する必要があります。」と書いています。

弁護士会照会で何を伏せるか、どこまで出すかの定めは、この Q&A にはありません。ここは施設の顧問弁護士に確認する場面です。

回答の前に、照会の文書から確かめること

範囲を絞るには、まず何を求められているかをはっきりさせます。保険会社への提供について、Q&A(4-6)は本人に説明して確かめる中身として、次のものを挙げています。

「提供する個人データの範囲(いつからいつまでの時期の情報を提供するのか、診療録の要約等を作成するのか、検査結果のデータも提供するのか、など)や、どのような形態で提供するか」

この並びは、保険会社以外の照会を読むときの手がかりにもなります。照会の文書を読みながら、次の点を書き出しておくと、回答の範囲を決めやすくなります。

  • 期間:いつからいつまでの診療についての照会か。初診日・受傷日・入院期間などで区切られているか
  • 項目:傷病名・症状・治療の内容・検査の結果・今後の見込みなど、どの項目を求めているか
  • 形:質問に文章で答える形か、診療録や検査結果の写しを求めているか
  • 誰からの照会か:保険会社・捜査機関・弁護士会のどれで、何を根拠にした照会か

求められている項目が文書から読み取れないときは、回答の前に照会元に問い合わせて確かめる、という手もあります。分からないまま手元の記録を広く渡すと、求められていない情報まで出してしまうことになります。

範囲を絞る 3 つのやり方

求められた範囲が決まったら、それだけを渡す方法を選びます。Q&A(4-6)の言葉を借りると、選び方は「どの時期の情報か」「要約を作るか」「検査結果も出すか」「どの形で出すか」です。実際のやり方としては、次の 3 つが考えられます。

1. 文章で答える・要約を作る

照会の質問に、回答書の文章で答える方法です。Q&A が「診療録の要約等を作成するのか」と書いているとおり、記録そのものではなく要約を作って渡すことも選択肢です。求められた項目だけを書くので、範囲を外れた情報が混ざりにくいやり方です。

2. 写しのページを選ぶ

写しを求められたときは、照会の期間に当たるページだけを写しにします。期間の外のページを外すだけでも、範囲はかなり絞れます。検査結果を求められていなければ、検査結果のページも外します。

3. ページの中の、求められていない部分を伏せる

難しいのは、1 枚のページに求められた情報と求められていない情報が一緒に載っているときです。たとえば、照会の傷病とは別の病気の記載、同じ日の別の受診の記録、家族などが医療者に伝えた事情、ほかの患者の名前が紛れ込んだ記載などです。ページごと外すと必要な情報まで欠けるので、その部分だけを伏せた写しを作ることが、範囲を絞る手段の 1 つになります。

どの部分が「求められていない」に当たるかには、項目の一覧がありません。照会の文書と記録を読み比べながら、1 か所ずつ選ぶことになります。迷う部分は、記録を書いた医師や施設の担当に確かめてください。

出したものを、あとで説明できるようにする

Q&A が求めていること

警察・検察への回答について、Q&A(4-25)は次のように書いています。

「照会や事情聴取に応じ警察や検察等の捜査機関に対し個人情報を提供する場合には、当該情報提供を求めた捜査官の役職、氏名を確認するとともに、その求めに応じ提供したことを後日説明できるようにしておくことが必要と思われます。」

あとで患者本人から「何を渡したのか」と尋ねられたり、提供の範囲が問題になったりしたときに、答えられるようにしておく、ということです。Q&A がこう書いているのは捜査機関への回答についてですが、保険会社や弁護士会への回答でも、同じ備えをしておくと説明しやすくなります。

残しておくとよいもの

  • 照会の文書:誰から、何を、何の根拠で求められたか
  • 実際に渡したものの控え:回答書と、添えた写しそのもの(伏せた部分があるなら、伏せたあとの版)
  • 判断の記録:どのページを外し、どこを伏せたか。誰が決め、誰が確かめたか
  • 保険会社の場合の本人の確認:提供する範囲をどう説明し、本人がどう答えたか

原本の診療録には手を加えず、写しを作ってから絞る、という順番も大切です。

写しを PDF で作るときの注意

黒い四角を重ねただけにしない

電子カルテから出力した PDF や、紙の記録をスキャンした PDF で伏せるとき、注釈や図形で黒い四角を重ねただけだと、文字の層がある PDF なら下の文字がファイルの中に残っています。文字を選んでコピーすると、伏せたはずの部分が読めてしまいます。紙の写しをペンで塗る場合は、塗りが薄いと下の文字が透けることがあります。

PDF で伏せるなら、下の文字ごと消す(焼き込み)方式を使います。やり方は PDF を黒塗り(墨消し)する正しい方法 に、失敗の型は 黒塗りが「見える」「剥がせる」原因と、渡す前の確かめ方 にまとめています。渡す前の PDF は 剥がしテスト(無料)で、黒い四角の下に文字が残っていないかを調べられます。

ページの外し忘れと、ページの外の情報

ページを選んで写しを作ったときは、渡す前にページの並びをもう一度見ると、期間の外のページの混入に気づけます。PDF には、本文のほかに文書情報(作成者・タイトル)や注釈、添付ファイルが入っていることもあります。ページの上下の余白(ヘッダー・フッター)に氏名や ID が入っていないかも、本文と合わせて確かめます。

Fuseji で伏せる場合

Fuseji(伏字)は、日本語の PDF と画像から、氏名・住所・生年月日・電話番号や、「患者ID」「カルテ番号」の後ろの番号、医療機関の名前などを候補として示し、選んだ部分を下の文字ごと焼き込むアプリです。種類ごと・語ごとに、まとめて消す・残すを切り替えられます。照会の範囲から外れる記載のように決まった形の無い部分は、ページの上でドラッグして範囲を囲んで消します。

書き出した直後に、消した語が残っていないかを自動で確かめ、結果を検証レポートとして PDF・CSV で残せます(個人版以上)。レポートには墨消しの件数が種類別・ページ別に載り、注釈・添付ファイル・文書情報の除去の結果もまとめて残ります。出したものを説明できるようにする ときの控えの 1 つになります。原本のファイルは上書きせず、伏せた写しを別のファイルとして書き出します。処理はすべて Mac の中で行い、書類そのものや見つけた語を送ることはありません。

検出は「候補の提示」です。漏れがないことを保証するものではないので、最終的な確認は画面で行ってください。どこを伏せるかを決めるのも、Fuseji ではなく施設の判断です。医療機関向けの説明は 医療機関・研究者の方へ にあります。

手順のまとめ

  1. 照会の種類を確かめる:保険会社・捜査機関・弁護士会のどれか。何を根拠にした照会か
  2. 本人の同意が要るかを確かめる:保険会社の照会は、同意書があっても、提供する範囲を本人に具体的に説明して意思を確認する(Q&A 4-6)
  3. 回答するかを判断する:弁護士会照会は、回答するか否かを個別の事例ごとに判断する(Q&A 4-4)。迷うときは顧問弁護士に確認する
  4. 求められた範囲を書き出す:期間・項目・形(文章か写しか)。読み取れなければ照会元に確かめる
  5. 範囲を絞る方法を選ぶ:文章で答える・要約を作る/期間のページだけを写しにする/ページの中の求められていない部分を伏せる
  6. 伏せた写しを確かめる:PDF なら文字を選んでコピーできないか、ページの外し忘れ・ヘッダー・文書情報が残っていないかを見る
  7. 記録を残す:照会の文書・渡したものの控え・判断の記録。捜査機関なら求めた捜査官の役職と氏名(Q&A 4-25)

このページは、参考に挙げたガイダンス・Q&A・法令の要点を整理したものです。個別の照会に回答するか、どの範囲を出すか、伏せてよいかは、施設の担当部署や顧問弁護士、個人情報保護委員会のガイドラインに確認してください。価格は 価格 にあります。

参考