個人情報はどこまで黒塗りする? 書類を渡す相手・目的から消す範囲を決める手順
先に結論
書類を社外やほかの担当者に渡すとき、すべての書類に共通する黒塗りの範囲はありません。個人情報保護法の定義は広く、一方で、本人確認や年金・介護の手続きでは、相手が読む必要がある項目があります。氏名を全部消せばよい、番号を全部消せばよい、という問題ではありません。
- 先に提出先の案内を確認する:どの書類の、どの項目が必要かを見ます。書いていなければ、番号や家族の情報まで要るかを尋ねます
- 目的に要らない情報を消す:ただし、マイナンバー、基礎年金番号、医療・介護保険の番号は、一般論だけで決めず、それぞれの決まりを確認します
- 必要な項目まで消さない:本人確認の氏名・住所・生年月日、審査で見る氏名などを隠すと、書類として受け付けてもらえないことがあります
- 見えない所まで消す:PDF の文字の層、文書情報、ほかの人の欄、QR コードも確認します
このページは、消す範囲を決める入口です。法律の定義を確認したうえで、書類と場面に応じた解説へ進める構成にしています。個別の提出でどこまで消すかは、提出先の案内や所管の官庁、専門家に確認してください。
個人情報の範囲を決める定義
氏名がなくても、個人を識別できる情報はある
個人情報保護委員会の「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」(令和 8 年 6 月一部改正)2-1 は、氏名、生年月日その他の記述等で特定の個人を識別できるものを挙げています。法第 2 条第 1 項第 1 号は、さらに「他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることとなるものを含む。」としています。
氏名だけを隠しても、生年月日、住所、顔写真、勤務先、会員番号などの組合せで誰か分かることがあります。反対に、書類の目的上は氏名を残し、ほかの項目を消す場面もあります。個人情報に当たるかとその項目を消すかは、同じ問いではありません。
同じ 2-1 は、個人に関する情報について「氏名、住所、性別、生年月日、顔画像等個人を識別する情報に限られず、ある個人の身体、財産、職種、肩書等の属性に関して、事実、判断、評価を表す全ての情報であり、評価情報、公刊物等によって公にされている情報や、映像、音声による情報も含まれ、暗号化等によって秘匿化されているかどうかを問わない。」と説明しています。公開されているから消さなくてよい、画像だから対象外、とはなりません。
ほかの情報と照合できるかも考える
ガイドラインは、他の情報と容易に照合できる状態を、通常の業務における一般的な方法で照合できる状態と説明し、事業者の実態に即して個々に判断するとしています。たとえば、書類から名前を消しても、提出先が持つ名簿の番号や、ファイル名、文書の文脈から個人を結び付けられる場合があります。
そのため、本文の中だけでなく、提出先がほかに持っている情報も考えて範囲を決めます。ただし、誰かを特定できない状態に加工することが、そのまま法律上の匿名加工情報になるという意味ではありません。ここでは、一つの書類を渡すときに、要らない項目を消す作業を扱います。
番号には個別の決まりがある
個人を割り当てる番号は個人識別符号
法第 2 条第 2 項第 2 号は、個人に発行されるカードや書類などの符号について、「その利用者若しくは購入者又は発行を受ける者ごとに異なるものとなるように割り当てられ、又は記載され、若しくは記録されることにより、特定の利用者若しくは購入者又は発行を受ける者を識別することができるもの」を個人識別符号としています。
通則編 2-2 が挙げる政令第 1 条の番号には、旅券の番号、国民健康保険の被保険者記号・番号等、基礎年金番号、運転免許証の番号、住民票コード、介護保険の被保険者番号等、個人番号(マイナンバー)があります。書類の番号だから一律に消す・残すのではなく、どの番号かを見ます。
マイナンバーは提供できる場面が決まっている
番号法 第 19 条は「何人も、次の各号のいずれかに該当する場合を除き、特定個人情報の提供をしてはならない。」と定めています。本人が個人番号利用事務等実施者に提供する場合など、条文の各号を確認する必要があります。
本人確認にマイナンバーカードを使うときは、表面と裏面で扱いが違います。個人情報保護委員会は、身分証明書の写しとして表面をコピーする場合と、裏面の個人番号をコピーする場合を分けて説明しています。詳しくは マイナンバーカードの写しと裏面の個人番号 を確認してください。
年金・医療・介護の番号も別の決まりを見る
基礎年金番号には国民年金法 第 108 条の 4、健康保険の記号・番号には健康保険法 第 194 条の 2、介護保険の被保険者番号等には介護保険法 第 201 条の 2 があります。それぞれ、事業や関連事務に必要な場合などを除いて、番号の告知を求めることが制限されています。
この制限は、番号が印刷された書類そのものを一切提示してはいけないという意味ではありません。提示と書き写し、写しの取得は分けて考え、提出先の案内に沿って番号部分を隠します。
渡す相手と目的から消す範囲を決める
① 何のために渡すかを一つに絞る
同じ書類でも、住所を証明するため、年齢を確認するため、報酬の計算のためでは、必要な項目が違います。まず目的を一つに絞り、その目的に必要な欄を書き出します。後で別の用途にも使いたいという場合は、今回の提出に必要な範囲と分けて考えます。
② 提出先が求める項目と、求めていない項目を分ける
申込みの手引き、様式、ウェブの案内を見て、必要な項目を確認します。本人確認書類の写しなら、氏名・住所・生年月日が読めること、顔写真が要ること、どの面を出すかが指定されていることがあります。これらを消すと、目的を果たせません。
案内にない番号や家族の情報まで消してよいかは、書類の性質と提出先の運用で変わります。証明書に手を加えたものを受け付けるかも含めて、分からない所は提出先に確認します。
③ 本人以外の情報も見る
世帯の名簿、給与の一覧、患者や従業員の表、相続の書類では、提出の対象ではない人の氏名・住所・生年月日が並ぶことがあります。対象の人の欄だけを残しても、ほかの人の欄が残っていれば、その人たちの情報を渡すことになります。ページの上下、裏面、続きのページも確認します。
④ 消す方式を選ぶ
紙にペンで塗る場合は、透けて読めないかを写しの状態で確認します。PDF や画像では、黒い注釈や図形を上に置くだけでは、下の文字がファイルに残ることがあります。下の文字ごと消す(焼き込み)方式を使い、書き出したファイルで確認します。
場面ごとの解説
書類ごとの決まりと、消す欄・残す欄は、次の解説にまとめています。ここから該当する場面へ進み、最新の提出案内と照らしてください。
- 保険証・資格確認書の写し:記号・番号・枝番・保険者番号・QR コードの扱い
- 介護保険被保険者証の写し:介護保険法 第 201 条の 2 と、提出先ごとのマスキング
- マイナンバーカードの写し:表面と裏面、個人番号と QR コード
- 年金手帳・基礎年金番号通知書などの写し:基礎年金番号を隠す場面と、番号が要る手続き
- 住民票の写し:交付のときに個人番号・本籍・続柄を載せない方法
- 裁判所・家庭裁判所に出す資料:証拠や報告の書類で消すもの、住所・氏名等の秘匿の制度
- 開示請求への回答:黒塗りの範囲と不開示の理由、行政文書の部分開示
- 採用の応募書類:社内で回す前に要らない情報を消す考え方
消し忘れと隠しすぎを防ぐ方法
消す候補と残す項目を分けて一覧にする
作業の前に、目的に必要な項目、番号など決まりに沿って消す項目、目的に要らない項目を分けます。ページを上から順に塗るのではなく、一覧と照らしながら進めると、氏名まで消す、別の人の行を残す、といった失敗を見つけやすくなります。
画面に見えない情報も確認する
- 文字の層:黒い四角の上から文字を選択・コピーして、消した語や番号が出てこないかを見ます
- 検索:消したはずの氏名や番号を検索します。ほかの人の欄も試します
- 文書情報・しおり・添付:作成者、題名、しおり、添付ファイルに個人情報がないかを見ます
- スキャンの文字認識:紙の画像の下に、見えない文字の層が残っていないかを確認します
- QR コード:目で読めなくても、番号が記録されている場合があります
書き出した PDF は 剥がしテスト(無料)で、黒い四角の下に文字が残っていないか、見えない文字や文書情報が残っていないかを調べられます。
Fuseji で確認する場合
Fuseji(伏字)は、日本語の PDF と画像(PNG・JPEG。Mac では HEIC も)から氏名・住所・生年月日・マイナンバーなどを候補として示し、選んだ部分を下の文字ごと焼き込むアプリです。消す・残すは候補ごとに選べ、候補に出ない欄はページの上でドラッグして囲めます。同じ原本から、提出先ごとに範囲を変えたファイルを別名で書き出せ、原本のファイルは上書きしません。
検出は「候補の提示」で、漏れがないことを保証するものではありません。書き出した直後に消した語が残っていないかを自動で確認しますが、必要な項目を消しすぎていないかも含め、最後は画面で確認してください。
手順のまとめ
- 目的を決める:本人確認、住所の証明、審査、社内共有など、今回の目的を一つに絞る
- 提出先の案内を読む:必要な書類・項目・面・形式を確認し、消した写しを受け付けるかも確かめる
- 番号の種類を調べる:マイナンバー、基礎年金番号、医療・介護保険の番号は、それぞれの決まりを見る
- 本人以外の情報を探す:名簿のほかの行、家族、担当者、別ページを確認する
- 原本とは別の写しで消す:紙なら透けないか、PDF なら下の文字ごと消える方式で
- 両方向から確認する:要らない情報が残っていないか、必要な項目まで消えていないか
- 出すファイルを検査する:文字の選択・検索・文書情報を見て、剥がしテストでも調べる
このページは、個人情報保護委員会のガイドラインと法令の定義をもとに、書類を渡す前の確認の順番を整理したものです。ここで示す項目を消せばすべての場面に足りるという意味ではありません。個別の手続きは、提出先の最新の案内や所管の官庁を確認し、必要に応じて専門家に相談してください。価格は 価格 にあります。
参考
- 個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」(令和 8 年 6 月一部改正)2-1・2-2:https://www.ppc.go.jp/personalinfo/legal/guidelines_tsusoku/
- 個人情報の保護に関する法律 第 2 条(e-Gov 法令検索):https://laws.e-gov.go.jp/law/415AC0000000057
- 行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律 第 19 条(e-Gov 法令検索):https://laws.e-gov.go.jp/law/425AC0000000027
- 国民年金法 第 108 条の 4(e-Gov 法令検索):https://laws.e-gov.go.jp/law/334AC0000000141
- 健康保険法 第 194 条の 2(e-Gov 法令検索):https://laws.e-gov.go.jp/law/211AC0000000070
- 介護保険法 第 201 条の 2(e-Gov 法令検索):https://laws.e-gov.go.jp/law/409AC0000000123